「じゃあお前ら、ちび共の世話、しっかり頼んだで」
そういって俺と蝮の頭を撫でて、柔兄が京都を離れてから、もう1年になる。


今日、蝮は京都を去る。
「忘れ物はないかえ」
「大丈夫です」
「蝮、東京でも、身体に気ぃつけてや」
「なんかあったら柔造んことこき使えな」
「おじ様、そんな」
「ええんよ蝮ちゃん。うちの柔造が使えるときはいつでも」
「おば様まで」
「姉様、私ら寂しいの我慢してええ子にするから、だから」
「姉様に電話してもええ?」
「ええよ、父様が携帯電話買うてくれたさかいな。私も電話するわ」
「なあ、まむしもいってまうんか?」
「まむしねえがおらんかったら」
「ぼくたちさみしいです」
「竜士様も廉造も子猫もそんな顔せんで。京都には金造も青も錦もおりますえ。それに、三年したら帰ってきますさかい」
宝生家の門の前で身内が集まって、蝮との別れを惜しんでいるのを、俺は輪の少し外から眺めていた。
「きーんぞう、お前は何一人で不貞腐れてんねや、もうタクシー来たさかい、蝮行ってまうぞ。最後くらいちゃんと挨拶せえ」
「あでっ」
そんな俺を見たお父が、頭にゲンコツを落としたあと、俺の手を引いて無理矢理輪の中へと引き込む。
「……金造」
「あー、これで口うるさいんが減ってせいせいするわあ」
「なあ金造、よお聞き」
蝮が俺の肩を掴んで、真剣な眼差しで俺を見た。
「去年とおんなじや。一番年上の私がのうなって、青や錦もおるけれど、男の子ん中やったらあんたが一番お兄ちゃんや。ちび共の世話、頼んだで」
「……なんやそれ、柔兄のパクリか」
「せや。けど、大事なことや。お前がしっかり面倒見とるか、妹たちに見張らせるで。志摩にも報告したるから、そんつもりでお気張りやす」
「はあ!?」
蝮はいたずらっぽく笑ったあと、「ほな皆さん、行って参ります」と頭を下げ、タクシーに乗り込んだ。蟒さんと蝮を乗せたタクシーはみるみるうちに小さくなって、駅の方へと消えていった。
「これでまたさみしゅうなるなあ」
「いやいや、手間のかかるちび共がおりますよって」
「せやなあ、当分は賑やかや」
大人たちはけらけら笑っている。俺はとてもじゃないけど笑う気分にはなれなかった。

蝮は泣かなかった。去年は隠れて泣いていたくせに。本当は泣き虫のくせに。昔は蟒さんが家に帰れない日、しょっちゅう泣いていたくせに。
大好きな家族と離れて一人、遠く離れた東京へ行くくせに。
蝮は泣かなかった。東京には柔兄がいるから。

「………くそったれがッ」
道端に転がっていた石ころを蹴飛ばした。





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