※まほろパロ
これの続き
勝呂が祓魔師じゃない、バツイチ
二人は30代前半
捏造だらけ
それでも良ければスクロール











朝日が顔を照らすのが眩しくて、勝呂はのろのろと目を開いた。やけに酒臭い。それから、腰が痛い。ぼやける視界の中に応接室のローテーブルにうず高く積み上げられた空き缶の山をとらえた。おかしい。自分はほとんど飲めないはずだ。
「……そうや、志摩が来たんや……」
次第に覚醒してきた脳味噌が、昨日の出来事を思い出す。
確か帰りにディスカウントショップで酒とつまみを購入し、帰るなり酒宴となったのだ。飲めない癖に酒を飲もうと言ったのは、志摩が若い頃酒好きだったのと、二人で楽しく話でもしながら酒を飲めば、思い出したくなかった過去の話を忘れられると思ったからだ。案の定、昨夜の夢見は悪くなかった。
しかし、無理をしたせいで二日酔いが酷い。頭はガンガンするし、むかむかして吐きっぽい。おまけに何故か腰が痛い。
「……ん…」
背中の方で何かがもぞもぞと動いた。
「……あ、坊、おはようございます……」
「………何で二人でおんなじベッドで寝てんのや」
背中がやけに温いと思ったら、志摩が勝呂にぴったりとくっつくように眠っていたのだった。
「だって、布団が一枚しかないじゃないですか」
志摩はベッドから起き上がり、背伸びをした。
「うっわ、たくさん飲みましたねぇ」
「相変わらず、志摩家の連中は酒豪なんやな」
勝呂も頭と腰の痛みに顔をしかめながら起き上がる。
「痛ぁ――……」
「あ、腰、大丈夫ですか」
志摩が勝呂の様子に気づいて声をかけた。
「?いや、動けへん訳やないけど痛いな……俺、昨日腰に何かしたんか?」
それを聞くと志摩は少し驚いたような顔をした。
「……覚えてへんのですか?」
「ん、俺、酒飲むと記憶少し飛ぶんよ」
勝呂はいつもそうだ。飲んでいる間のことはほとんど覚えていない。残るのは頭痛だけ。
「風呂ですっ転んで、腰を強く打ったんですわ」
志摩はくすくすと笑いながら言った。
「どすーんてすごい音がしたと思ったら、坊が風呂場から『いってぇ―――!』って叫ぶんですもん、びっくりしましたわ」
「………アホや」
勝呂は少し頬を赤く染め、頭を掻いた。時計を見ると、もう昼時である。随分長く寝ていたようだ。
「……せや、今日は大晦日やん。坊、なんかご馳走とか食べへんのですか?」
志摩がにこにこと尋ねる。まさかこいつ、実家に帰らないつもりなのか。勝呂は思ったが、口にはしなかった。
「ああ、一人で年越すんも寂しいからな、正月は毎年奥村んとこにお邪魔してんのや。あそこなら美味いもんも食えるしな」
「……へ?おく、むらくんとこに」
志摩の顔がひきつった。勝呂はその反応に首をかしげる。何か問題でもあるのだろうか。
「今年も行くつもりやけど、お前も行くか?もうずっと会っておらんのやろ。顔出せば、あいつらも喜ぶで」
「……えと、……いっ、行きますわ、おん」
志摩はぎこちなく笑って見せた。やっぱりおかしい、と勝呂は志摩の顔を見た。まあ、疑っても仕方がない。勝呂がこの男の心のうちを読めたことは、片手で数えるほどしかないのだ。
「じゃあ、着替えたら行くで。あ、そや、チワワも連れていかんと」
「あっ、じゃあ俺、奥村くんに電話いれますわ。急に押しかけたら迷惑ですよって」
「ああ、せやな」
「坊、携帯貸してくれません?俺今持っとらんのです」
「ん、ああ、ほれ」
勝呂から手渡された携帯電話を持ち、志摩はトイレへと向かった。鍵を閉め、電話をかける。3コール目で受話器が上がった。
『勝呂?お前何時に来るんだよ』
「お、奥村くん、俺や、志摩やけど」
『あれ、志摩か。おう、お前どうだったんだよ、あれから』
「それはあとでじっくり話しますわ。あんな、俺も坊にくっついてそっちにお邪魔することになってん、それでもええ?」
『いいよ、料理多目に作る予定だったし』
「おおきにな、んで、俺の奥村家でのこと、なんとかごまかしてほしいんよ」
『あ?何でだよ、ぶっちゃけたんじゃねえのか』
「昨日の今日でそんなん無理やって!」
『お前ホントにヘタレだな、カッコ悪い』
「うっさいわ、とにかく、よろしゅう頼んますえ。若先生にも言うといて。あ、それと犬一匹連れてくんでそれもよろしゅう」
『ちょ、おい、志摩』
「ほんなら、また後でっ」
志摩は電源ボタンを押した。受話器の向こうで燐が何か言いかけていたが無視した。カッコ悪いと言われようが、こっちにも予定と言うものがあるのだ。こればかりは台無しにされたら困る。

□□□

勝呂の住む街は東京と神奈川の境目あたりにあり、正十字へは車で1時間ほどかかる。
車を運転している間、勝呂は志摩に、なぜ彼がここにいるのかを聞きたくて仕方なかった。そもそも携帯電話も持っていないとはどういうことだろうか。今のところ実家から連絡が入ったわけではないから、騒ぎにはなっていないと思いたいが、果たして志摩が行方を眩ましたところで自分に連絡が来るかと考えれば、安心は出来なかった。
もしかしたら昨夜、志摩にここへ来た理由を聞いたのかもしれない。しかし何も覚えていないのだ。聞いたのかもしれないことをもう一度聞くのは憚られるし、気軽に聞けないような理由だったらどうしようとも思った。十年ぶりに再会した親友との年越しだ、気まずい空気にはしたくない。そう思うと迂闊に口は開けず、おもむろにポケットから煙草を取り出し、火をつけた。
「坊、ラッキーストライクなんて吸ってはるんや」
チワワを抱き、今まで大人しく黙っていた志摩が勝呂の煙草を見て呟いた。
「ん?ああ」
「坊、煙草似合いますね。手がかっこええわ」
「?そら、おおきに」
沈黙が訪れる。どうやら志摩も何を話そうか思案している様だった。
聞きたくても聞けないこと、聞かれたら困ること。
少なくとも十年前、勝呂は秘密というものをほとんど持っていなかったし、聞いてもよいのかと躊躇うこともなかったのだ。
この幼馴染みとのやり取りも実に単純明快で、勝呂が志摩に放つ言葉はすべて本心だったし、志摩に対して気を遣うことはほとんどなかった。
志摩だって、本心かどうかは別として、こうやって慎重に言葉を選ぼうとして会話を途切れさせることはなかったはずだが。
今は二人、こうして言葉を探して、自分と相手を傷つけない距離を必死になって保っている。
変わってしまったのか。
勝呂は窓を開け、煙を吐いた。
十年という長い月日と、二人の間にあった物理的な距離が、二人の関係を変えてしまった。
勝呂はそれが少し寂しかった。

沈黙を破ったのは、志摩だった。
「………柔兄と蝮姉な、子供九人作ったんです」
「きゅ、九人!?」
「……まあ、俺らも七人やし、柔兄は子供好きですから。でも流石にお父もおったまげとったわ」
「そら、蝮も大変やな……」
はは、と勝呂は軽く笑う。
どうやら志摩は、お互いのことには触れず、共通の知人に関する世間話をするつもりらしかった。
「子猫さんもえらい別嬪の嫁はん貰いましたし、金兄もバンドやめてもうたし、お父と蟒さんは引退して、和尚と三人で甘味屋巡りやら、盆栽やら日向ぼっこやらしとって、すっかりご老人や」
盆栽はともかく、八百造と蟒が甘味屋巡りや日向ぼっこというのは、勝呂にはどうにも想像できなかった。おそらく父の趣味に二人が付き合っているのだろうが。
「………お前は、結婚せえへんのか」
勝呂は恐る恐る尋ねた。聞き返されたらなんと答えよう、とびくびくしたが、聞かずにはいられなかった。
「俺?しませんよ、見合いも全部断っとります」
志摩はいたずらっぽく笑った。「意外でしょ」
図星だ。勝呂は、同い年の三人の中で、志摩が一番最初に結婚するのだとばかり思っていたのだった。それも出来婚とかで。しかし、一番最初に結婚したのは自分であり、女好きの志摩は結婚はしないと言う。
未来とはわからないものである。
「……好きな人が、おります」
勝呂は目を見開いて、志摩の顔を見つめた。
「ちょ、坊よそ見せんといて!危ないですわ!」
志摩に言われ、勝呂は慌てて前を見た。
「……ほんまか」
「はい。……でも、絶対叶わへんから、胸にしまっといて、墓場まで持っていきます」
志摩はチワワをぎゅっと抱き締めた。温かい生き物を抱き締めると、ひどく幸せな気分になるから不思議だ。
「お前の口から、そんな言葉を聞くことになるなんてな……」
勝呂は煙を吐くと、灰皿に煙草を押し付けた。
「え、それちょお酷くありません?坊は俺をなんやと思ってはりますの」
「遊び人やと思っとったわ」
「ヒドッ!」
ご丁寧においおいと泣く真似をしてみせる志摩を見て、勝呂は思う。
変わったのは二人の関係だけではない。
自分も、志摩も、変わってしまったのだった。
チワワをぎゅっと抱き締め、想い人のことを語る志摩は、悲しげだったが、ひどく幸せそうだったのだ。
それは勝呂が失って久しい感情に違いなかった。自分にはもう、誰かを愛することなんて、到底出来そうにないのだ。
勝呂の胸がちくんと痛んだ。





続きます




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