※まほろパロ
勝呂が祓魔師じゃない、バツイチ
二人は30代前半
捏造だらけ
それでも良ければスクロール











年末。クリスマスも終わり、街は新年の準備で慌ただしく行き交う人々で賑わっていた。電柱に取り付けられたスピーカーから、子供たちに帰宅を促す『夕やけ小やけ』のメロディーが流れる夕暮れ時、閑静な住宅街の一軒家を後にするべく、勝呂竜士は依頼主の女性に挨拶をしていた。
「………では、1月3日に、また伺いますね」
「よろしくお願いします。すみません、留守中の犬の世話まで頼んでしまって」
「いえ、ええですよって。この子が居れば、私も一人寂しく年末年始を過ごさんですみますわ。ほな、失礼します。よいお年を」
「………よいお年を」
女性はドアを閉めた。勝呂は踵を返して、胸元に抱いたチワワを見つめた。
チワワの瞳は潤み、身体は小刻みに震えている。そうか、寒いのかと、勝呂は首に巻いていたマフラーでチワワをくるんでやるが、震えが収まる気配はない。早く家に帰って、暖かい寝床をこしらえてやろう、と勝呂は思い、路肩に駐車してある車へと向かった。
「その犬、坊のですか?」
後ろから聞こえてきた声に、勝呂はびくりと肩を揺らした。
自分のことを『坊』と呼ぶ者は限られているはずだ。しかも、その者たちは全員、勝呂の住む街を知らないはずだった。
勝呂はゆっくり振り返る。
ブロック塀に背中を預けて立っていたのは、品の良いコートとマフラーを身に付けた、黒髪の男だった。
「…………志摩」
その男は、志摩廉造。
かつて、勝呂に仕えていた、幼馴染みの男だった。

「坊の犬ですか?」
志摩は答えない勝呂にもう一度尋ねる。そして勝呂が抱えているチワワを見てニヤニヤと笑った。その姿に勝呂はむっとした。ガタイのいい強面の自分に、小型犬が似合わないことくらい、自分が一番わかっている。
「ちゃうわ、依頼主のや」
「依頼?」
「便利屋やってんねん、俺」
勝呂はポケットから名刺入れを取り出し、一枚引き抜いて志摩に手渡した。太めのゴシック体で“勝呂便利軒”と書かれている。
「今日はさっきの家に物置と庭の掃除頼まれとったんや。旦那の実家に皆で行くらしいんで、ついでに犬も預かったわけ」
「へえー、何や凄いですなあ。祓魔師辞めてもちゃあんと仕事見つけて働いとる。流石坊やわぁ」
「それよりお前、何でここに居るん。仕事はどうしたんや。俺の居場所を何で知っとる」
「その質問には追々答えますわ。俺も坊に聞きたいことが山程ありますし。それにしても寒っ」
志摩は身体を震わせた。十二月も半ばである。雪がちらつき始めた。勝呂の抱いたチワワが一層小刻みに震え始めた。
「あかんわ、チワワが震えとる。一旦帰ろか。ほれ志摩、お前も乗れ」
勝呂が後ろ手で指さしたのは、路肩に駐車されていた軽トラックだった。志摩は驚いた。まさか勝呂の車だとは思っていなかったからだ。
「えーいややわ、軽トラなんてだっさいの」
「文句言いなや。泊まるとこは?」
「まだ」
「ほな、うちに泊めたるさかい、大人しゅう乗れ」
勝呂はそう言うとさっさと軽トラックに乗り込み、エンジンをかけた。
志摩は一人そこに残るわけにもいかず、がしがしと頭を掻いたあと、助手席に乗り込んだ。

□□□

夕暮れ時の国道は、家に帰る人達の車で軽く渋滞になる。この日は金曜だったこともあり、いつも以上に車が進まなかった。勝呂は苛々して、ハンドルを指でカツカツと叩く。
志摩は運転する勝呂の代わりに抱いたチワワを弄っているばかりで、勝呂に話しかけては来なかった。勝呂も志摩に話しかけはしなかった。十年振りに再会した友と何を話せばいいかわからなかったからだ。
「煙草、吸ってええですか」
志摩はチワワで遊ぶのに飽きたらしく、コートのポケットから煙草を取り出した。
「おん。犬がおるから、窓開けぇや」
「はいはい」
志摩は窓を開け、煙草を一本くわえるとジッポのライターで火を点けた。
この男も煙草を吸うようになったのか、と勝呂は思った。自分が京都を離れるとき、彼の髪の毛はまだピンクだったし、煙草は吸わなかった。
「しっかしこんなしみったれた街で便利屋やっとるなんて、誰も想像しいひんかったわ」
志摩は外の景色をぼんやり見ながら呟いた。
「明陀は継がん言うて駆け落ちして、行方眩ませてもう十年やな。奥さんは元気ですか?お子さんは何人おるんやろか」
勝呂が息を飲んだ。志摩はそれに気づき、煙を吐きながら横目で勝呂を見た。嘘がつけないのはどうやら相変わらずらしい。かなり動揺しているようだ。
「……もしかして、別れたんですか」
プップー、とクラクションの音が聞こえた。車の列はいつの間にか前に進んでいたらしい。勝呂は慌ててアクセルを踏む。落ち着け、と自分に言い聞かせて、深く息を吸い、吐く。
「………七年前や。子供はおらん」
勝呂が小さく呟いて告げるが、志摩からの応答はなかった。いつもは気の利くこの男も、流石になんと言おうか考えているらしかった。
「……酒でも買うて帰ろか。今夜は飲もうや」
勝呂は沈黙に耐え兼ね、わざと明るい声を出した。志摩ははっとした顔をしたあと、そうですね、とぎこちなく微笑んだ。




たぶん続く




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