明日、蝮は結婚する。

蝮の結婚を聞きつけた勝呂たちは、急遽フェレス卿に外出届を提出して実家へと戻ってきた。三人とも、幼い頃からなにかと面倒を見てもらってきた、大事な姉代わりの人の結婚である。駆け付けないわけにはいかない。

「あれ、竜士様に廉造、子猫、どないしたんですか」
三人が宝生家を訪ねると、蝮はなぜ三人がいるのかわからない、と言った顔で首を捻った。
「阿呆。お前の結婚式に出えへんわけないやろ」
「あ、私のためにわざわざ正十字から…?」
「当たり前やないですか、蝮姉のためやったら、俺らハワイでもブラジルでも駆けつけますえ」
「志摩さん、ハワイやブラジルはさすがに金銭的に無理やよ」
「やだなあ子猫さん、ものの例えや」
「改めて、ほんまにおめでとさん」
「「おめでとうございます」」
「おおきに」
「ああ、ほんまに蝮姉結婚してまうんやねえ、俺さみしいわあ」
「大袈裟やなあ、廉造は。別に出張所にはいつでもいるんやから、普通に会えるわ」
「あああああ蝮姉は優しいなあああ俺のほんまの姉ちゃんやったら良かったのになああああ」
「志摩さんどしたん、いきなり大声で」
「いえ、なんでも」

宝生家からの帰り道、
「でも僕、蝮さんは柔造さんと結婚するんやと思っとりました」
子猫丸が呟いた。勝呂もそれに頷く。
「俺もそう思っとったわ。志摩、柔造はどしたん?帰ってきてからまだ一度も会うてないのやけど」
「あー……柔兄なら布団の中で死んでますえ」
「はあ!?死んでるってどういうことや」
「本当に死んでるんとちゃいますよ?ただ、まるで廃人ですわ。金兄に聞いたら、蝮が結婚するて聞いてから日に日にだめになってったらしくてなあ、三日くらい前から仕事もろくにこなせんようになって、困ったおとんが1週間休みにしたらしいですよ」
「そないショックやったんか……」
「なんや柔造らしくないなあ」
「坊?らしくないって、どういう意味ですのん」
「いやな、あいつは大事なもんを他の奴にほいほいくれてやったりなんかせぇへんやろ」
「……せやねぇ、柔造さん言うたら『笑顔でゴリ押し』ですもんね」
「いやー、せやかて流石の柔兄も蝮姉から『私、結婚するんや』て言われたら何も言えんでしょう」
「まあ……」
「でも俺は、あいつはこのまま引き下がるような奴やない思っとったんやけどなあ」
俺の見込み違いやったんか、と勝呂は頬を少し膨らませて不満気であった。



続きます




09/21
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