全く、本当にこの男は学習しない。この間も、突然のにわか雨に遭遇したというのに。夏に夕立は付き物やって、知っとる筈なのに。
「蝮、傘入れてや」
性懲りもなく、志摩は傘を忘れたらしい。
「何や、また持っとらんのか、しゃあないな」
ほれ、とピンクの折り畳み傘を広げて差し出す。
「あんたが持ち。私より背ぇ高いんやから」
「おう、おおきに」

小さな傘の中、肩と肩が触れ合うくらいくっつきながら、雨の中を二人で歩いていく。何だか気恥ずかしくて、私はずっと黙っていた。志摩も口を開かなかった。
そうしているうちに志摩の家について、志摩は私に傘を手渡し、するりと傘の中から抜け出した。
「いやあ、お陰で濡れずにすんだわ」
おおきにな、と手を振って志摩は家の中へと入っていった。
「……阿呆が」
私は小さく、呟いた。
志摩の肩は、濡れていた。私の肩は、濡れていない。
私の方にばかり傘を傾けるから、自分は濡れてしまうのだ。
「……ほんまに、阿呆や」
でも、雨が降る度、今日も志摩は傘を忘れたのだろうかと、少し期待している自分もいて、少しだけ、自己嫌悪。


相合傘




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