台所で俺に背を向けて食器を洗っている奥村くんを、ただぼんやりと見つめていた。
彼が「今日、飯食いに来ねーか?雪男が留守なんだ」と俺達を誘ったのは、今日の放課後のこと。ま、たまにはええか、と坊が言ったので、子猫さんと俺もついてくる形となった。
奥村くんは美味しい夕食を振る舞ってくれた。メニューは肉じゃが、麩入りの味噌汁、胡瓜の漬物と決して豪華なわけではなかったけれど、あかん、これは美味いわ。奥村先生が羨ましい。いつもこんなに美味い飯を食ってるなんて。お母の作った料理を思い出して、ちょっと涙が出そうになったのは秘密だ。

飯が終わったら坊は予習があるからと早々に帰ってしまった。子猫さんはクロと遊ぶのに夢中。俺は一人、手持ちぶさた。
「奥村くん、俺も洗い物、手伝うよ」
横から手を伸ばすと、奥村くんは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに「ああ、ありがとな」とスポンジを差し出した。
俺が食器を洗って、奥村くんが濯いでいく。特に会話もなく、黙々とお皿を洗っていった。四人分の食器と調理器具はすぐに洗い終わり、子猫さんが此方を窺って「志摩さん、そろそろお暇しましょ」と声をかけてきた。「せやな、ほんなら奥村くん、ご馳走様」
タオルで手を拭いながら奥村くんの方を振り返ると、何だか不安そうな顔をしていた。
「帰っちまうのか?」
ん?頭の中でクエスチョンマークが飛び交う。
「うん、だって明日も学校やろ」
「………」
そしたら奥村くんは黙って下を向いてしまった。
えっ、俺が悪いの?
見かねた子猫さんが小さく笑って、
「ほんなら、志摩さんは泊まっていったらええよ。坊には僕が伝えとくさかい。明日の朝志摩さんの荷物持ってまた来るさかい、奥村くんは僕らの朝ごはんも作ってくれまへん?」
そしたら奥村くんは頷いた。俺の頭は混乱状態だ。あれよあれよという間に話は進んで子猫さんは帰ってしまった。奥村くんはごめんな、志摩と呟いた。
「ひとりの夜が、こわいんだ」
その気持ちがなんとなくわかったような気がしたから、俺は笑って
「気にせんでええよ。明日は奥村くんの朝ごはんが食べれるんやし」と言った。


夕餉




08/03
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