嫌な夢を見た。
青い夜の夢だ。十六年前のその日、自分はまだ生まれていなかったはずなのに。
目の前で、明陀の皆が身体から青い炎を吹き出して倒れて行く。
達磨も、八百造も、蟒も、柔造も金造もみんな。
そして最後には、志摩も子猫丸も。

そこで目が覚めた。
机に突っ伏していたところから見ると、どうやら勝呂は予習をしながら寝てしまったようだった。シャープペンシルはまだ右手に握られているし、寝息で少し湿ってしまったノートには、ミミズが這うような字で経典の暗記練習がしてあった。部屋の電気は落とされているが、机の上の電気スタンドは煌々と辺りを照らしている。
「…………夢、」
きょろきょろと周囲を見渡せば、そこにはいつもと変わらない、自分達の部屋があった。
「坊、どないしはったん」
とん、と肩を叩かれて勝呂はびくりと震え、それから恐る恐る振り返る。そこには心配そうに覗き込む子猫丸と、コップを手にした志摩が立っていた。
「………志摩、子猫」
「ずいぶんうなされとりましたね、大丈夫ですか?ほらお水」
勝呂は志摩に手渡された水をこくこくと飲み干す。
「落ち着きましたか」
「悪い……起こしてしもたか」
「いえ、僕も志摩さんも暑うて寝てられへんて話してたとこや」
「悪夢でも見たんですか?電気付けっぱなしだとよく見るらしいですわ」
はやく消しましょ、と志摩は電気スタンドを消してにっこり笑った。

部屋の電気はつけずに、部屋の窓を開け放って、志摩のベッドに三人で座って、ゴリゴリ君をかじる。やっぱ暑い時にはゴリゴリ君やなあ、せやね、なんてとりとめのない会話をしながら、志摩と子猫丸は勝呂がうなされていたことには触れなかった。この二人はいつもこうだ。理由も聞かず、ただ側に寄り添っていてくれる。その距離感がとても心地よくて、ほんに、よう出来た奴らやわ、と勝呂は思ったのだった。


悪夢




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