犬塚キバの場合 「なぁなぁ、見ろよこれ!」 帰り道、そう言ってキバが嬉しそうに私に見せたのは鞄に入った可愛い包装の施されたチョコ十数個。モテるモテないは別にしてキバは持ち前の明るさから男女問わず友達が多い。所謂人気者ってやつだ。しかし、これを見せるためにわざわざ私を追い掛けて走ってきたのかコイツ。ったく、人の気も知らないで… 「はいはい、良かったわね」 「何だよ、その冷てー反応は!」 「カカシ先生その5倍は貰ってた」 「マジかよ!?」 「マジマジ」 私が歩き出すとキバも勝手に横に並んで歩き出した。カカシ先生の何がそんなにモテるんだとか何とか一人でぶつぶつ言っている姿はもしかしなくても気持ち悪い。そして気付けばいつもの分かれ道、ここから先はお互い真反対の道。独り言を言うキバに聞こえてるかはわからないけど、「じゃ」と短い挨拶をして道を曲がる。 「あ、ちょっと待て!」 「何?」 「お前何か忘れてねぇ?」 「…何かって何よ」 どくん。一瞬心臓が大きく反応を示したがあくまで平静を装う。本当はキバが何を言いたいのかくらいわかってる。だけど知らないふりを決め込む。 「チョコ、まだお前から貰ってねーんだけど」 「…ないよ、用意してないもん」 「うそつき」 「嘘じゃないわよ」 時間もお金もなかったの、と再び歩きだそうとしたら鞄を掴まれた。否応なしに振り向かされてキバと視線がぶつかったがすぐに目を逸らした。 「ばーか、俺は鼻がいいんだよ」 「……もうたくさん貰ったでしょ」 「なんだ、それで拗ねてんのかよ」 「拗ねてないし」 わかってるのならもう帰らせてほしい。心のどこかで自分は他の子たちよりもキバに近い存在なのだと自惚れていた。それはもちろん友達として、だ。その延長でキバへの想いが恋へと変わって、同時に自分とキバの間の距離がぐっと広がった気がした。そんなことがあって迎えた今日は本当に自分が惨めに思えて、情けなくて涙が出そうだ。 「じゃあ、これ全部返してくる」 「……は…?」 顔を上げられずに地面ばかりを見ていたのに、その言葉に思わず顔を上げてしまった。清々しい程の笑顔の彼は一体何を考えているのか。 「ナナに貰えねーんなら意味ねェからよ」 「何、言って……」 「すぐ戻ってくるからそこにいろよ!」 本気で返しに行くつもりなんだろうか。そうなると私の子供じみた感情のせいであのチョコの贈り主の子達が嫌な思いをすることになる。それを返す側のキバとて同じこと。そんなのは御免だ。私のちっぽけな良心もさすがに痛む。 「待ってキバ!」 私の声に、既に走り出していた足を止めてキバが振り返る。 「なんだよ」 「…ごめん、」 嫉妬した。 自分でも驚く程すんなりと出てきた言葉にキバの表情が和らぐ。その表情を見た瞬間すっと心が軽くなった。 「…――ったく、」 どんだけ俺のこと好きなんだよ、とか言いながら戻ってきたキバに頭をぐしゃぐしゃにされる。 「ん」 「さんきゅ」 なんでもっとこう、可愛げのある渡し方が出来ないのか。ぶっきらぼうに突き出された自分の右手が憎い。それでも笑顔で受け取ってくれるこいつは悔しいけどかっこいいと思う。 HappyValentine!
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