奈良シカマルの場合 「寒ぃ…」 一度目は覚めたものの寒さのせいで布団から出られずにぐずぐずしていると再び睡魔に襲われる。まぁ今日は日曜だし、起きなきゃならない理由もないわけで。このまま大人しく睡魔の誘いに乗ってやろうと目を閉じた。その矢先。 「おはよー!」 「………」 乱暴にドアを開ける音と共に現れたのは賑やかな幼なじみ、ナナ。目を開けてその姿を確認し、もう一度目を閉じた。が、コイツがそのまま大人しく眠らせてくれるはずもなく、荒々しく布団をひっぺがされる。 「勘弁してくれよ…」 「シカマル!今日が何の日か知らないの?」 「……今日ぉ?」 突き出された幼なじみの手には綺麗にラッピングされた小さな箱。あぁ、そう言えば。それを見て、今年のバレンタインは日曜日だからチョコは期待できないとキバが嘆いていたのを思い出した。 「…バレンタイン、か」 「正解!ほらシカマル、寝てる場合じゃないの!」 バシバシ肩を叩かれて仕方なく起き上がるとふわぁと大きなあくびが出た。ちらっと時計を見れば短針はまだ8と9の間。…朝っぱらから元気だなコイツは。 「はい、これ」 「ん、さんきゅ…」 ん?小さな箱を受け取ると、リボンと箱の隙間に白いカードがはさまっていた。去年も一昨年もその前の年もチョコはもらっていたけどこんなものがはさまっていたのは初めてだ。 「これ…──」 「い、いいから読んで!」 珍しく顔を真っ赤にして余裕のないナナのその様子から、何となく内容の予想がついてじわり手が汗ばむ。柄にもなく俺も緊張しているらしい。おそるおそる白いカードをめくると、 “ずっと前から大好きです” 少しくせのある丸い文字でそう一言だけ書いてあった。予想はしていたものの、やっぱり心臓はドキドキと騒がしい。再びナナを見れば頭を下げてぎゅっと目を閉じ、握手を求めるような形で右手を俺に差し出していた。その律儀な姿勢が無性に愛しくて、ぐいっとその手を引いてナナを抱き寄せる。 「わ…っ」 「あーあ、先越されちまったぜ」 「え?」 「…ったく、こういうのは男に言わせろっつうの」 「それって…っ!」 ばっと勢いよく上げられたナナの顔は今にも泣き出してしまいそうで、年齢よりもずっと幼く見える。 「俺も、お前が好き」 そう言うや否や強張っていたナナの体から力が抜けて、うわぁんと子供みたいに泣き出した。
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