ピピピッ



「38.7度…完璧に風邪です」

「…そうかよい」



ここ何年も風邪なんて引きゃァしなかったのに、原因は一体何だ。熱に浮かされてぼんやりする頭で思考をめぐらせてみるも心当たりは無かった。…というか考えるのが面倒臭くなった。



「不死鳥でも風邪引くんですね」

「バカじゃねぇからなァ」

「体調管理も録に出来ない人のことバカって言うんですよ」

「………」



病人相手にえらく辛辣なナースだ。ベッドの上で上体だけを起こし、さらさらと診察結果の書き込まれていくカルテを覗こうとしたらすいと避けられてしまった。

そして持ってきた箱の中から注射器を取り出すと、何かを確認するようにピュッと少量中身を押し出しつつ再びおれへと向き直る。



「とりあえず一本打っときましょうか」

「待てよい、お前はとりあえずで人の体に穴あける気かい?」

「…まさか、その歳で注射が怖いとか寒いこと言わないですよね?」

「…………」



ナースが白衣の天使だなんていうのはどうやら迷信だったらしい。未だナースの手に光る注射器を見つめながら、でれでれとおれにその迷信を吹き込んだ色ボケリーゼントの顔を思い出していた。



「はぁ…。じゃあ飲み薬取ってきますから横になっててください」



顔をしかめるおれの心中をどう察したのか、ナースは小さくため息を吐くとくるりと踵を返し部屋を出ようとした。

が、それは叶わず。
ナースの腕を掴み引き留めるおれに彼女は怪訝な顔を向けてくる。ベッドから両足を下ろして、その細腕を強引に引き寄せた。されるがままに此方に傾いた身体に両腕を回し、顔を埋めればそこは丁度胸の辺り。



「…何、してるんですか。注射が必要なのは頭でしたか。」

「ナナ、」

「はい?」

「薬なんかいらねェからここにいろよい」



ここまで淡々とおれに接してきたナースが僅かに動揺したのを見逃さなかった。



「体が弱ると人恋しくなるタイプですか」

「いや、」

「じゃあ何なんですか」

「こんな時でもないとお前を独り占め出来ねェからなァ」

「………」



普段は能力のお陰で怪我なんてもんは殆どしないし、したとしても手当が必要な程ではない。必然的にナースと――ナナと関わることも人より少なくなるわけで。



「まぁ、無理にとは言わねェよい」



顔を少し上げて思ってもないことを口にする。断られたところで離すつもりなど毛頭ないくせに。相変わらず表情に大した変化は見られないが、ふいと逸らされた横顔がほんのり熱を持ったのを見ると口許を弛めずにはいられなかった。



「―そう言う理由なら…ここにいてあげなくもないです、けど……」

「なら、頼むよい」



ぶっきらぼうに返された言葉に笑い声が漏れそうになるのを必死に堪えて、先程よりも強く胸に顔を押し付けた。








調





















「バカも悪くねェかもなァ」

「はい?」

「何でもねェよい」




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