「ナナー…」
「ちょっと!マルコがこんなんなるまで飲ませたの誰よ!」
いつにも増して盛り上がっている今日の宴は、今わたしの首に絡み付いて離れようとしないこの男の為に開かれたものである。本日の主役こと一番隊隊長不死鳥マルコ只今泥酔中。
「だっはっはっ!傑作だなオイ!」
「なァ一番隊、下剋上するなら今だぞ」
「い、いえ、おれ達はそんな…!」
首に絡み付いたままのマルコはわたしの名前を連呼しながらふにゃふにゃ笑って上機嫌だ。それを見て爆笑のサッチと一番隊隊員を唆すイゾウ。あいつらが犯人か、。今はこんな有り様だがマルコだって酒に弱いほうではないのだ、決して。ただ、サッチはともかくイゾウの酒豪っぷりはこの酒豪揃いの白ひげ海賊団の中でも群を抜いている。大方サッチに挑発されてイゾウと飲み比べでもさせられたのだろう。こう見えてマルコは以外と単純だ。
「こんなに酔っ払って」
「酔ってねェよい」
「あのねぇ、……やっぱいい…」
なぜ酔っ払いとは自分が酔っていることを認めようとしないのか。もうこうなってしまえば此方が何を言おうと無駄だ。面倒なことになる前にとっとと眠ってもらおう。そう思っているのが顔に出たのか「疑ってんだろい」と納得のいかない様子で詰め寄ってくるマルコ。正直面倒くさい。
「どう見てもベロンベロンじゃねェか」
サッチの横槍にマルコは敏感に反応する。余計な事言わないでと目で訴えてみるもいっそ清々しい程に無視された。
「まぁ、酔ってないってんならその証拠に船縁の上まっすぐ歩いてみろよ」
「楽勝だよい」
「む、無理に決まってんでしょ!」
そう叫んだ時にはもう遅かった。船縁に上がったマルコは「見てろよい、お前ら」とわたし達を指差して得意になっていた。一歩、ふらり。二歩、ふらり。あぁ、もう見ていて気が気じゃない。降りてきてといくらわたしが言っても大丈夫だと聞く耳持たない。そうやって10歩ほど歩いた時、ついに事は起きてしまったのだ。
ずるっ
「「あ」」
「きゃあああマルコぉぉぉ!」
「隊長ぉぉぉ!」
どぼーん!大きな音と共に高い高い水飛沫を上げてマルコが夜の海へと落っこちた。
「どわーっはっはっはっダセエ!!」
「隊長ともあろう者が情けねェ…」
「言ってる場合ですか二人とも!早く助けに行かないと…!」
「待って、大丈夫、わたしが行く。でもその前に……サッチ一発殴らせろやテメェ!」
腹を抱えて大笑いしているサッチに一発喰らわして海へ飛び込む。何でおれだけだよ!と、不満の声が聞こえたが無視だ無視。イゾウに手出すと後が怖いからね。
夜の海は冷たくてお酒でふわふわしていた頭も一気に冴えてしまった。しかし、運のいいことに今日は満月で明るい夜だったためすぐにマルコを見付けることが出来、急いでマルコを拾って海面へと浮上する。
「ぷは…っ、マルコ!」
くたりとわたしの肩に頭を預けているマルコの頬を軽く叩いてやれば「生きてるよい」と弱々しい返事。それを聞いてほっと安堵のため息が漏れた。
「もう…、サッチなんかの安い挑発に乗らないでよね」
「…悪かったよい」
へらり。本当にそう思ってるのかと聞いてやりたくなるような顔を向けられて脱力する。
「隊長ー!ナナー!いたら返事を!」
「あ、ここ―――、…!」
仲間の呼び掛けに手を振って応えようとした瞬間。スッと伸びてきたマルコの手に口を塞がれて、軽く船体へと身体を押し付けられた。
「マルコ?」
「折角二人きりになれたんだ、」
――何もしない手はねェよい。
そう言い終わる頃には既に唇は重なっていて。
「…んぅ…ッ」
冷えた唇とは対照的に熱いマルコの舌がゆるゆると口内を動き回る。突然の事に多少驚きはしたものの、心地好いその行為に目を閉じてキスを受け入れた。
二度目のわたし達を呼ぶ声が聞こえてやっと唇を離すと、さっきまでとは違いいつもと同じ余裕の笑みを浮かべているマルコ。彼は一瞬だけ、してやったりといった風に口角を上げると船上からわたし達を探している仲間に向かって「ここに居るよい」と手を挙げた。
酔ってなんかない、
酔っ払いはみんなそう言うの
(マルコ本当に、酔ってる?)
(あぁ、強かに)