涙涙のあの日の出航から今日で5日目になる。初めのうちは物珍しそうに遠くから指をさされていたあたしだけど、一人二人と徐々に話しかけてくれる人も増え、今ではある程度仲間として認識してもらえているようだ。
ただ一人、こいつを除いては。
「おはよう」
「…………」
甲板でデッキブラシを持って立つシャチにいつも通り挨拶をしたらいつも通り無視された。おはようを返すどころかこっちをちらりとも見ようとしない彼にわざとらしく呆れたような溜め息を吐けば、あちらも大げさに舌を打って返した。
その行動はもちろん苛つくけど、すぐにでも頭ひっぱたいてやりたいけど、今はガマンガマン。今日こそは彼がこうもわたしにつっかかってくる理由を何が何でも確かめてやると決めたんだから。
一番下っ端のあたしと、ジャンケンでみんなに負けてしまった残念なシャチ。そういうわけで今日の甲板掃除の当番はわたしたち二人。そういう話をするにはいい機会だと思うんだ。
「よし!」
自分の分のデッキブラシを手に取り、既にごしごしと掃除を始めているシャチの隣に立つ。
「シャチさぁ、」
気安く呼ぶなと言わんばかりの視線を投げられ、またすぐに背を向けられた。そして苛立ちをぶつけるように洗剤液の入ったバケツにデッキブラシを乱暴に突っ込むシャチ。
「ずっと思ってたんだけどさぁ」
しかし、そんな当て付けに負けじと声の音量を上げて言葉を続ける。
「あたしの事好きでしょ」
「はァッ!?…っのわ、冷てェっ!」
今まで無視を決め込んでいたシャチだったがあたしの言葉に動揺したのか、バシャーッ!と豪快にバケツの中身をひっくり返して自分の足ごと甲板の一角を水浸しにした。ぷぷ、図星だろ!
「何でそうなるんだよ!!」
「好きな子程いじめたくなるっていうアレでしょ?」
「…お前、バッッッカじゃねェの!?」
声を荒げたシャチがどすどすと足を鳴らしながらあたしの前まで来たかと思えば、目の前にビシッと人差し指を突き付けられ、その勢いに思わず背中が仰け反る。
そして間髪いれずに言葉を投げつけてくる彼により、あたしは初めて彼の本心を知ることになる。
「おれはお前みたいな船長目当てで船に乗りたがる女が大っ嫌いなんだよ!!」
「…あれ?」
これは想定外だ。