「何だ、じゃあさっきのはビビって最後まで言えなかったわけじゃないのか」
「ビビりはした(イケメンすぎて)」
そんなわたしの中途半端な答えを聞いて眉間にシワを寄せるマスター。それとは対照的に一つ決心をしたあたしはもう笑顔が止まらない。口角が上がりすぎて痛いくらいだ。
「…お前、まさか――」
「マスター、あたしあの人達と海に出たい!!」
しかし、ダイヤモンドのごとく目を輝かせて語るあたしの希望はマスターの大きな大きな溜め息によって吹き飛ばされた。
「やめとけやめとけ、お前みたいに何の取り柄もない小娘が相手にされるわけないだろ」
「ぐっ、聞いてみなきゃわからないでしょ!」
「そんな暇があるならグラスの一つでも磨いとけ」
これだから大人は!きーっ!もういい直接聞いてみないことには何も始まらないんだ。マスターの抑制する声を背中に聞きながらすたすたと8番テーブルへ向かう。
「あたしを船に乗せてください!」
まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に言ってみた。…のは良いけど、直後に汗が吹き出す。わたしをガキ扱いするマスターへの反抗心から思わずこんな行動に出てしまったことを少し後悔した。
がやがやと店は客の声で賑わっているのに8番テーブルだけがまるで時間が止まったかのように静かになる。ぱちくりしているベポやキャスケット帽の彼、PENGUINと書かれた帽子の人の視線がつらい。
「…海賊になりたいのか?」
「え…いや、あ、はい!」
厳密に言えば海賊になりたいわけではない。ぶっちゃけ海に出られるのなら海賊船だろうが何かの商船だろうが関係ない。
「この船を選んだ理由は?」
「それは……」
ちらりとベポに視線を向ければ彼は愛らしく首を傾げた。それにへらりと笑って返す。いやいや、理由だ。理由、理由はベポに恋しました。その上キャプテンがイケメンだったので……とか言えるわけねぇぇぇぇ!
「まぁいい。だがただで乗せるわけにはいかないからな。入団テストを受けてもらう」
「そうですよね、ダメで―――…え?テストォォ!?」
マスタァァア!!!!聞いたかコンニャロ!!得意気にマスターを振り返れば呆れたようにもう知らんとそっぽを向かれた。
って言っても海賊の入団テストって何だろう。戦闘能力のテストだったら確実に落ちるなぁ…あ、忠誠心を試すために自分の大切な者を殺せとかかも…?ぎゃぁあ!!むりむり絶対むり!!あぁでもローさんすっごい悪い顔してる!何か企んでますみたいな!でもその顔素敵!!
「あの、テスト内容は…」
「ベッドの上で俺を満足させてみろ」
「は…、え?」
「それが出来たら船に乗せてやる」
ベッドの上…?ってつまりそういうことで、つまり、だから、そのつまるとこもしかしてだからローさんと◇※◎△#@☆!?
「ええええええええっ!!!?」
おいしすぎる!…ってそうじゃないだろばか!だってあたしはベポの事が…、でもテストに受からなきゃベポとは離ればなれになっちゃうわけで、これは愛の試練だと思えば……!そうだよね、これは愛の試練!決して浮ついた気持ちがあるわけじゃないもの!大丈夫!
「この店の向かいの宿で待つ。仕事が終わって準備が出来たら来い」
「は、い…」
じゅ、じゅ、準備…!?!?
何をしたらよろしいのでしょうかァーッ!!?