そのままうっかりお喋りに花を咲かせていたらどこからか聞こえた男の人の声がベポを呼ぶ。ベポは「アイアイキャプテン!」(ぐはっ可愛すぎる)と返事をし、声のした方へと小走りで行ってしまった。キャプテン、ということはその人がさっきのムカつく客をぶっ飛ばせとベポに指示を出した人物なのだろうか。だとしたらその人にもお礼言わなきゃだ。そう思い、ベポが立っているテーブルに自分も急ぐ。

「さっきは助けてくれてありがとう、ござ、い、―――」

 キャプテンイケメェ――ンっ!!!!
 そりゃ思わず言葉が途切れる位に。気だるそうに椅子の背もたれに両肘をかける姿がすごくサマになっている。ぼけっと見とれていたらキャプテンは口端を少し釣り上げて笑った。その表情やばい!


「別にお前を助けたわけじゃない」
「え?」
「あいつがわざとお前に足をかけたことで、台無しになったのがおれたちの注文品だっただけだ」

 あぁ、そういうことか。
 勘違い乙!恥ずかしすぎる。ってかわざと足出したのかあのクソヤロー一瞬でもミジンコ程反省して損した!あたし悪くないじゃん!ってかそうだ、あたしが吹っ飛ばした注文品マスターにまた作り直してもらわなきゃ!

「あの、すぐ作り直すんぐぇ…ッ!」

慌ててカウンターへ戻ろうとしたら、既に横にいたマスターに首根っこ掴まれて変な声が出る(あたし女の子なのに…っ!)。何するんだと視線を向ければ、もうとっくに出来てんだよバカ娘と頭をぐしゃぐしゃにされた。

「兄ちゃんたち、うちのバカ娘を助けてくれてありがとうよ。これはほんの気持ちだ」
「…当然のことをしたまでだ」
「えぇっ!!?」

 マスターが差し出した、注文品とは別の“ほんの気持ち”を見てキャプテンの態度はころりと変わる。キャプテン意外と現金だな!さっきは助けたんじゃないって言ったくせに!なに得意気に笑ってんだあのイケメン!くそっ、かっこいい!その横ではベポが既にすごい勢いで料理を口に運んでいた。あぁ、なんて豪快で男らしいんだろう。

「ゆっくりしてってくれよ」

 マスターの言葉に短い返事を返すとキャプテンも料理に手をつけた。にこにことその様子を見ていたらマスターに「お前はとっとと掃除!」と耳を引っ張られた。いたたた!女の子はもっと丁寧に扱え!この暴力マスターめ!

 渋々言われた通りに撒き散らした酒やら料理やらを片付けていると、ふと視線を感じ顔を上げる。その視線の正体はあのイケメンキャプテンだった。えっ!?今、わ、笑った!?えええっ!!!?ほんの一瞬だったけど、確かに微笑みかけられた。今はもう視線は一緒にいる仲間へと向けられている。…え…まさか、惚れられたかあたし!!でもあたしはベポが…、…これって噂に聞く三角関係!?あたしにもやっと色気のある話が…!

「あ!」

 思わずしてしまったガッツポーズ。傾いたちりとり。落ちるゴミ。言うまでもなく降ってくるマスターのげんこつ。

「〜〜ったい!!」
「掃除もろくに出来んのかァッ!」
「…ごめんなすゎい」

 マスターに適当に頭をさげつつちらりとキャプテンを盗み見るとやっぱり目が合った!どうしよう、もう間違いないなコレ!その後も掃除しながらちらちらと8番テーブルを盗み見てあることに気付く。8番テーブルに座っている4人全員、服に同じマークが付いている。それは特殊ではあるがあのマークに見えなくもない。もしかして彼らは。マッハで掃除を済ませマスターのいるカウンターへと走る。

「マスター!も、もしやあの人達海賊?」
「何言ってんだバカ娘」
「やっぱ違…」
「ありゃ2億のルーキー、トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団じゃねぇか」
「…へ?」
「ちなみに黄色い服着てんのがトラファルガーだ」

うええぇぇぇ!!!!?
“キャプテン”は大物ルーキー様でしたかァ――ッ!


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