「うおおお完全復活!!」
「同じく完全復活!!」

 朝目が覚めて検温を済ませると、結果は良好。シャチもわたしもすっかり平熱だ。あんなにダルかった身体が嘘のように軽い。とりあえず昨日は断念したシャワーを浴びたい。全てはそれからだ。シャチに気付かれないようにこっそり自分のにおいを嗅いでみる。…うむ、臭くはない。

「じゃあ、わたしはシャワーにいぎゃああああ!!」
「うお!?なんだよ!?!?」
「なんだよはこっちの台詞ですけど!?何脱いでんの!?!?」
「着替える為ですけど!?」
「目の前にいるのレディですけど!?」
「はぁ!?そんなもん居ませんけど!?」
「アンタの目は節穴か!!」
「お前が図々しいんだよ!」

 シャチのデリカシーのない行動に言い合いが勃発。言い合いはそのままエスカレートし、尚も着替えを続行しようとするシャチに服やら枕やら手当たり次第に引っ掴んではぶん投げた。投げたモノは当たりはしなかったものの、だからと行って奴が黙っているわけもなく。シャチもシャチで身の回りにあるものを掴んでは投げてくる。
 色んなものが入り混じりどれがどっちのものかわからなくなってきた頃、がちゃりと入り口のドアが開く。そしてお約束の――

「おい、朝からなに騒いで―…っ!?」

 ボスッ

「げ!」
「あ!」

「…………、」

 げんこつをくらった。ペンギンさんは割と容赦ない。シャチと二人で床に正座させられて始まったお説教は「お前らはいくつのガキだ」から始まってたっぷり10分間。くどくどと続く耳の痛い話にわたしたちがぐったりし始めた頃にやっと終わった。

「朝食が済んだら今日は物資の調達だからな」
「え!?自由時間は!?!?」
「ない。陽が沈む前に出航する」
「美味い酒は!?おれの美女は!?」
「風邪なんか引いたお前が悪い」

 へにゃへにゃと崩れたシャチが床に伸びる。やっぱり海賊といえども陸は恋しいものなのだろうか。陸、というか酒と美女?そう思うと昨日わたし達のせいで上陸がお預けになってしまったペンギンさんに申し訳なくて申し訳なくてその表情を伺おうとチラリと盗み見た。
 盗み見た、つもりだったが普通に気付かれてしまいバチリと視線がかちあう。「ん?」と首を傾げられれば気まずさと気恥ずかしさから曖昧に笑って「ごめんなさい」と告げることしかできなかった。

「ほんとにな。美女と美味い酒が飲める貴重な機会だったのに」
「ヴっ、ほんとごめんなさい…!」
「冗談。すぐに治ってよかったな」
「ペンギンさんのおかげですよ。ありがとうございました」
「どういたしまして」
「今日からはバリバリ働きますよ!」
「シャチもこれくらいの気合があってくれればいいんだが」

 床に伸びたシャチは動かないまま。ペンギンさんがつま先でつついても動かない。ペンギンさんからながいながい溜息が吐き出された。
 シャチのことを諦らめたペンギンさんがくるりとこちらに向き直る。

「ナナ、今日はおれと一緒に行くぞ」
「はい、荷物持ちは任せてください!」

 腕を捲ってそう応えればペンギンサンは頼もしいなと笑う。マスターに散々こき使われたお陰で腕力には多少自信があった。やっとわたしでも多少の役には立てそうな仕事がまわってきたのだ。張り切らない訳がない。
 それに…仕事であるとは言え、元いた島から出たことのないわたしにとっては初めての上陸。はじめての外の世界に期待は膨らむばかりだった。

「じゃあ30分後に甲板で」
「了解しました!」

 着替えを引っ掴んで部屋を飛び出す。風呂場へ向かう足は自然と早まって顔はゆるゆると締まりを失った。あぁ、こんなにわくわくしたのはいつぶりだろうな。


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