「空ってすごくない?広くて大きくて、自然の中でああもころころ表情の変わるものは他にないし、どんな風景にも空はあって何とでも調和するの」

 ぱっと両手を上げて空の魅力を説く。これはアレです。他愛もない話に花を咲かせてあわよくば仲良くなっちゃおう作戦!やっぱお互いの事を知らないままに突然仲良くしてくれって言われても困るよね、って思ってこの結論に行きつきました!
 ……なのに、

「何その面倒臭ェと言わんばかりの目!」
「急に何語り出しちゃってんの?」
「まぁいいから聞いてよ」
 
 あたし今まで友達って言える程仲のいい人っていなかったんだ。そんな言葉に返ってくるのは気の抜けた適当な相槌。くそう、めげないぞ。

 子供の頃は引っ込み思案でとてもじゃないけど知らない子に声なんてかけられなくて、店の手伝いがない時は誰か声かけてくれないかな〜なんて思いながらぼんやり空を眺めてる事が多かったんだよね。でねでね、ある日すごいことに気付いてね……空ってさあ、本当に広くて大きくて一か所も途切れることがないんだよ!しかも綺麗!ってコラ、欠伸すんな!
 季節ごと、毎日、毎時間変化する空を眺めるっていうのがいつの間にか密かな楽しみになっててさ、ちなみに一番好きなのは明け方と夕暮れ!いろんな色が混ざって何とも言えない気持ちになるんだよね〜。
 お店も商売柄色んな人が集まるでしょ。そうすると結構空についての話題が飛び交ってるの!珍しい形の雲とか虹とか、変な天気とか!そんなん聞いてるうちに自分のこの目で見てみたいなって欲が出てきちゃって――

「――つまり、それがあたしの海に出たかった理由」 
「……それだけ?」
「それだけ」
「なんでこの船なんだよ」
「んー、運命?」

 割と真面目に答えたつもりっだたがシャチには胡散臭いと一蹴された。

「じゃあこの前の“雨が降る”ってのも偶然じゃねェって事?」
「うん、一応」
「空が好きすぎて勉強したんだ?」
「ううん、してない」
「?」
「毎日毎日見てたらなんとなくわかるようになった」
「本当に誰も声かけてくれなかったんだな」
「憐れむような目で見ないで!!あと雨降りそう!」

 そう告げて二人で空を見上げた瞬間、ポツリ頬にあたる雨粒。シャチは少し驚いたような顔をして、それから少し笑った。
 この前のような、バケツをひっくり返したような強い雨。

「お前雨女なんじゃねェの!?」
「シャチが雨男なんでしょ!!」

 お互いが相手を指さし、そしてどちらともなく大声で笑い出した。

「仕方ねぇ、友達から初めてやるか」
「友達からって…ゆくゆくは付き合うつもり!?」
「ゆくゆくは仲間だよ!!今はせいぜいオトモダチ!!」
「え〜何ソレまどろっこしい〜」
「文句言うならうざいヤツに降格!」
「わー!!友達でいい!友達で!」

 雨のせいかなんなのかハイテンションのスイッチが入ってしまったあたしたちは無事に和解を果たし、あたしはめでたく“オトモダチ”に昇格したのだった。

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