結局その日はシャチを見つけられず、翌日もその翌日もどうやら避けられているらし
いあたしはシャチと話をすることが出来なかった。なんかちょっと良くも悪くも力抜けてきたな。
なんてシャチを追い掛け回すことにも飽きてきた頃船は島に着き、旅に出て最初の島に感動する間も無くあたしがぽかんとしているうちに上陸の準備は整ったのだった。
「というわけだから二人とも船番よろしくな」
「はい」
「待て待て待て待て!!!」
「異議は認めねェ、by船長」
「ペンギン!!!」
シャチの悲痛な叫び声を爽やかな笑顔で一蹴するとペンギンさんは先に船を降りていたローさん達の後を追って行ってしまった。あたしと二人甲板に残されたシャチは盛大な溜息を一つ吐き出し「ついてねェ」と呟く。
そして、そのままあたしを素通りして船内に戻ろうとするシャチの腕を思わず掴んだ。
「ねぇ、」
「……何だよ」
「船番って何するの」
「は?」
少し強張っていたシャチの肩からガクッと力が抜けたのがわかる。
「何って……別に何も。ただの留守番」
「ふーん」
「っつかそんなことも知らずに――」
「うん、知らなかったから聞いたの。教えてくれてありがと」
「…………」
やっぱり少し時間置けてよかったかも。いつもより落ち着いて話せる。
「……ってかいつまで人の腕掴んでんのお前」
「あ、ごめん」
「…………」
「でさあ、」
「離さねェのかよ!?」
突っ込まれた。
「離したら話聞いてくれないでしょ」
「今日は逃げねェから離せ」
そう言ってあたしと向き合うシャチに自然と口から“ありがとう”なんて言葉が出たのにはあたし自身驚いた。もちろん手も解放する。
「じゃあ、まず……あたしの名前はナナ。年はご想像にお任せします」
「……、おい」
「生まれはグランドラインのとある夏島、好きな食べ物は――」
「おいってば!!!」
「何?」
「こっちの台詞だろ!なに自己紹介してんだよ」
「いや、ちゃんとしたのはまだだったなぁと」
そう言ったら変な顔をされた。
「話ってこの前の事じゃねェのかよ」
「え?あぁ、あの時はごめん」
「軽っ!…っつか何でお前が謝んだよ」
「何でって……かっこ悪い逃げ方したから」
「そうじゃなくて、」
何かを言いかけて口を閉ざしたシャチを不思議にも思ったが、あの時の事で話すことはこれ以上何もない。穿り返したところでまた空気が悪くなるだけだ。
「シャチ、」
「……なんだよ」
「空って好き?」
「は?なんで空?」
「あたしが好きなの」
だから今日はもっと別の事。
お互いのことについて、とか。