タオルと着替えを借りたうえに、温かいココアまで淹れてもらって…まさに至れり尽くせりな状況だ。ペンギンさんはとても面倒見のいいお兄さんだった。

「…で、何があった?」
「え、と……」
「シャチ絡みなんだろ?」

 自分はベッドに腰掛けながら、あたしにはすぐ横の机用に置いてある椅子をすすめる。言葉ではなくスッと差し出した手でその椅子を示す辺りがペンギンさんらしい。

「あたし、シャチに嫌われてるみたいで…」
「ほう?」
「でも、言われてみればその気持ちもわからなくないというか……」
「どうしてそう思う?」
「だって特に取柄もなくて何の役にも立たない女がいきなり仲間になるなんて、やっぱりただ足手纏いが増えただけじゃないですか?」

 あたしの苦笑に対しペンギンさんは何も言わなかった。深くかぶられた帽子のせいでその表情もうかがえない。

「それでもシャチに仲間と認めてもらうまで頑張るって見栄きって、でもそのあとの言い合いでちょっと自信なくなったというか、なんというか…何も言い返せずに背を向けちゃったのが情けなくて自己嫌悪…みたいな」

 ……話をまとめるのが下手なことは自負しているつもりだ。
 とりあえず思ったことを口にしたものの、そもそもペンギンさんはあたしをどう思っているのだろうか。

「なるほど、情けないな」
「うっ……」
「シャチも幼稚だ」

 思わず視線を落としてしまった。
 感情に任せてものを言うタイプの人じゃあないだけに言葉のひとつひとつがグサリと胸にささる。

「そんな事くらいでめげててどうする。海賊は仲良しごっこじゃないんだぞ。」
「お、おっしゃる通りです」
「大体、お前ひとり増えたからって足手纏いになんかならない。おれ達はそんなにヤワじゃないんでな」

 顔を上げられなかった。しょうもない泣き言でペンギンさんを怒らせてしまったと思ったから。
 しかし、うつむいたままのあたしの頭にはまるであたしを元気づけるかのようにぽんと大きな手が置かれたのだ。そしてそのままわしゃわしゃと乱暴になでられる。

「あ、あの、ペンギンさん?」
「いつまでも辛気臭い顔してるんじゃない。不細工だぞ」
「酷い!!」
「お前が朝一番に起きて食堂のテーブルや窓を磨いてること、毎食後の掃除もかかさない事、食器だって以前よりピカピカになってる。目立たない努力をしている事はちゃんと知ってる」
「――…、」

「お前が来てから今までよりずっと気持ちのいい食事ができるようになった」

 ありがとうな。ペンギンさんがその言葉を言い終える時には既に泣いていた。ぼろりぼろりと大粒の涙が頬を転がり落ちていく。
 別に褒めてもらいたくて始めたわけじゃあないけれど、ちゃんと見ていてくれた事が、気付いてくれていた事が、無駄じゃなかった事が、どうしようもなく嬉しかった。

「それに、男だらけのむさ苦しい空間も女の子が一人いるだけでいくらか華やぐしな。おれはナナがこの船に乗ってくれてよかったと思ってるよ」
「うっ、ぐすっ…それちょっとむっつりっぽいです…」
「うるさい。ほら、いい加減泣きやめ。他の奴らに誤解されるだろう」
「でも〜…っ…」

 嬉しさと変な緊張が解けたせいで涙は次から次へとあふれ出る。また不細工って言われる前に泣き止まないと。
「……シャチは幼稚で鈍くて変な所体育会系だから面倒くさいかもしれないが、悪いヤツじゃない」
「はい……」
「お前なら大丈夫」

 自分ではけっこう図太い性格してるつもりだったけど、所詮それは虚勢でしかなかったみたいだ。ちゃんと仲間として受け入れてくれる人がいるとわかっただけでこれだもんね。
 でも嬉しい。心強い。また頑張りたくなる。頑張る。今度こそ。もう泣かない。

 服の袖でごしごし涙を拭って(あ、コレ借り物だった)、ココアを一気に飲み干して、ペンギンさんにお礼を言って部屋を飛び出した。



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