「終わったー!」
「余裕で俺の勝ちだな」
「え、まだそんなこと言ってたの?」
「……(こいつ殴りてェ…!)」
呆れ顔で人をバカにするような女の態度に拳を握る。しかし一応女であるコイツを本気で殴るわけにはいかない訳で。行き場を無くした苛立ちをグッと飲み込んで我慢したおれを誰か誉めて欲しい。
「まだ流す作業が残ってる」
「すぐ雨で流れると思うよ」
「……雨だァ?」
見上げた空は真っ青で快晴だ。この女は何馬鹿げたことを言っているのだろうか。さっきはあんな大口叩いたくせに、どうせ疲れたからって適当なことを言ってるに違いない。これだから女なんか船に乗せるもんじゃないんだ。
「シャチ、中戻ろう」
「…………」
「濡れちゃうよ?」
「…………」
「もう!びちょびちょになっても知らないからね!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ女の言葉を無視して甲板に水を撒く。しばらく煩かった女も、そうやって無視し続けていれば大人しくなって(ときどきぶつぶつと文句を言ってはいるが)甲板に水を撒き始めた。
ほらみろ、やっぱりさっきのは嘘―――ポツッ…
「ん?」
鼻の頭に確かに感じた冷たさにまさかと思い空を見上げる。しかし空は変わらず青いまま。気のせいか。そう思いバケツを拾い上げた瞬間、ザァーッと正にバケツを引っくり返したような雨がおれの全身に降りかかったのだった。
「うわぁッ!何だよ!?雨!?」
「だから言ったじゃん!」
「たまたまだろ!偉そうにすんな!」
「…っ、……」
てっきりまた怒鳴り返してくるもんだと思っていたおれは、何かを言おうとして口を閉じた女に思わず首を傾げた。が、結局その続きを口にすることなく女はバケツを拾い上げるとそのまま船内へと戻って行った。
どことなく元気の無い背中を見ながら雨の中で立ち尽くす。ついさっきまで何言っても噛みついてきてたくせに急に何なんだよ。
「……むかつく」
なんでおれがこんなにもやもやしなきゃなんねーんだよ。