シャチは数秒ポカンと口を開けて固まった後に「う、嘘つけ!」と怒鳴ってきた。

「嘘じゃない」
「……マジ?」
「マジ」

 真剣にそう答えれば、再び固まったシャチは今度は数秒後に大笑いを始めたではないか。まったく、女の子の淡い恋心を笑い飛ばすとはとんだダメ男だ。

「シャチってモテないでしょ」
「うるせー!」
「正直に話したし少しくらいあたしとも仲良くしてくれない?」
「やだね。男目当てに変わりはねーだろ。大体女クルーなんか迷惑なだけなんだよ。もし敵船と戦闘になったってお前ただの足手まといだろ」

 そう言われてデッキブラシを持っていた手が止まる(いや、今までもほぼ止まっていたようなもんだけどね)。

「他に特技も取り柄も無さそうだし?」
「うっ」
「それで海賊船乗せてくれとか…お前さぁ、海賊なめてんだろ」

 シャチの声が僅かに低くなる。さっきまでの彼とは別人のような雰囲気に正直少しとまどった。

「………」
「何だよ、泣くのか?だから女は」
「これしきで泣くかバーカ!」
「な…っ!」
 
 いーっと歯を見せてやれば今度はシャチの方が面食らったようだ。でも、シャチの言い分は最もだと思う。確かにあたしには戦闘スキルもこれと言った特技も取り柄もない。それでもこの船のみんなは何も言わないし優しかったから甘えていたけど、言わないだけで同じ不満を抱えてる人はいるかもしれない。

「海賊ナメてたわけじゃないけど、確かにみんなの優しさに甘えてたのは認める」
「………」
「シャチの不満も最もだと思う」

 この船を選んだ動機だって彼らから言わせれば不純なんだろうし。でも、海に出たかったのは本当で、元々の理由だけじゃなく今はやっと仲良くなれ始めたみんなと出来ればこのまま一緒にいたい。

「でもあたしは此処にいたい」
「勝手なヤツ」
「今は足手まといの居候だけど、いつか絶対あんたにも認めてもらえるように頑張る」

 言われっぱなしっていうのもやっぱり悔しいしね。あたしのそんな宣言に対しシャチはそれ以上悪態をつきはしなかった。
さて、目標も出来たことだし今日からはもっともっと此処にいるみんなの倍は頑張らないとね!「ってな訳で甲板そうじ、あとはあたしがやるからシャチは船内に戻って」

「はぁ!?何でおれがお前に命令されなきゃいけないんだよ!」
「別に命令じゃないでしょ!いいから戻ってってば」
「いやだ!大体お前一人なんかに任せてたら明日までかかっちまうしな!」
「じゃあ勝手にすれば。絶対シャチより多く甲板磨いてやるから!」
「おれがお前なんかに負けるか!」
「じゃあ勝負よ!」
「望むところだ!」

 と、まぁ何故か甲板掃除勝負になっちゃったわけだけども。少しでも早く仲間と認めてもらうため、目の前のことには何でも全力でぶつかっていく事に決めた。







「ペンギン、ナナとシャチはもうあんなに仲良くなったんだね」

「まぁ、似た者同士というか同レベルというか…」



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