陽も暮れかけ烏もおうちへ帰ろうという今時分、私が全速力で走っているのは修行中でなければ任務中でもない。ある男から逃げるため任務終わりの疲れた体に鞭を打ち必死に両の足を動かしているのだ。


そんな私をどこまでも追いかけてくる男は自在に操ることの出来る己の影を使い更に私を追い立てる。


しかし検討違いに伸びたその影に男も疲れが出てコントロールを失い始めたと踏んだ私は、ここで一気に逃げ切ろうとその影の反対方向へと進路を変える。


まさかそれが男の策略だとは露程も疑わずに。角を曲がり私が入りこんでしまったのは行く手を高い壁に阻まれた一本道。しまったと気付き振り返れば退路は既に塞がれていた。それと同時に男の術により体の自由も奪われる。


「影真似の術、成功」


にやりと得意気に歪められた口角がにくたらしい。一歩一歩ゆっくりと寄ってくる男と同じように、私の足も一歩また一歩男へと歩みを進める。どんなに足に力を込めて抵抗を試みてもそれが報われることはなく。他人に自分の体をコントロールされるというのは酷く不愉快だと思った。


男は互いの息遣いが聞こえる程私に近付くと術を解き、今度は自分自身の手を使って私の両手首を壁に縫い付けた。


「もう観念しろ」


額に汗は浮かんでいるものの、男の呼吸は殆ど乱れてなどいない。男に疲れが出てコントロールを失い始めた、そう読んだのはどこの間抜けだったか。検討違いな読みをした自分を力一杯殴ってやりたかった。


「で、俺から逃げた理由は?」


勝ち誇ったようなその顔を睨み上げても怯みもしない。それどころか男の態度はこの状況を楽しんでいるようにも見える。前文訂正。今私が力一杯殴るべきは目の前の男だ。





make a hasty judgment



「お前でも嫉妬とかすんのな」
「…うるさい」
「っつーかアイツ男だぜ」
「!」






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