「自来也さまーみずー」
「…ったく、世話がやけるのォ」
とか言って顔をしかめながら水の入ったグラスを枕元に置かれた。どうせくれるなら快くくれればいいのに。ナントカは風邪引かないって、あれは嘘だのォ。いやいやあながち嘘でもないのでは?だって現に自来也さまは風邪を引いておられないじゃないですか。余計な一言にそう返したら額に置かれていた濡れタオルで口と鼻を塞がれた。ちょ、この人病人に何するの!?死ぬ、死ぬから!
「本当、可愛くないのォ」
「うるさいです」
可愛くしてたってどうせ相手になんかしてくれないくせに。よいしょと上体を起こしコップを手に取る。水の入ったグラスはひんやりしていて気持ちいい。
「それ飲んだら大人しく寝ておけ」
「はぁい」
タオルを持って立ち上がる自来也様を横目にコップの中身を飲み干して、再び布団に潜る。が、熱い。水で潤したはずの喉は既にひりひりと乾燥していてどうしようもない。こんな状態で眠ることなんて到底無理だと思った。こんな酷い風邪は何年ぶりだろうか。もしかしたらこのまま死ぬかもしれない、普段からは考えられないようなそんな弱気な思考に至るなんて。
「ほれ」
目を瞑ったままうんうん唸っていると額に冷たいタオルの感触。目を開けると同時に大きな手が頬に添えられた。ぴくり、小さく肩が跳ねる。ふむ…まだ下がりそうにないのォ。風邪の熱とは違う熱さを感じ、内心でそりゃそうでしょと呟きながら離れてゆく熱の原因を見つめた。
そしてそのだんだんと遠のいていく手が何だか無性に寂しくて、もしかしたらもう触れられないかもしれないなんて。たかが風邪でここまで弱くなるなんて私は案外繊細な生き物なのかもしれない。と、そこまで考えてふと、何かを掴んでいることに気付く。それは何と、自来也様の大きな手。
「は……え、何?」
「それはワシの台詞だのォ」
慌てて手を離せば今度は逆にがっしりと手を掴まれた。ニヤリと憎たらしく歪む顔が目に入る。ほぉー?とニヤニヤニヤニヤ。うざいことこの上ない。ふい、とそっぽを向くとふんと鼻で笑われた。
「珍しく甘ったれだのォ」
「チガイマスー」
「ここに居ろってか?」
「何処へでもドーゾ」
「本当に手の掛かる付き人だのォ」
「だから何処へでも…、っ!」
言いかけた言葉を言い切れなかったのは、はたかれるか小突かれるかしかされたことのない手に頭を優しく撫でられたから。あぁ、体が熱くて胸がきゅうっと苦しいだなんて、今度こそ私死ぬに違いない。
「安心せい、今日だけは一緒にいてやる」
「まぁ、確かに…水持ってきたり、タオル替えてくれる人は必要ですしね」
「そういうことにしといてやるかのォ」
こうなったらもう開き直って病を理由にとことん甘えてやる。もう本当、覚悟しとけよ自来也様め。
くるり、向きを変えて未だニヤニヤと楽しそうにニヤける顔を見上げて微笑む。
じゃあさっそくですが
(抱きしめて貰っていいですか?)
(…何で、そうなる)
(いや、移せば治るかと思って)