「やっと言うこと聞いたか」
「褒めて褒めてー」
「あのなぁ、それが普通なの!」
「けち!」
「明日もちゃんとしてこいよ」
帰り支度をしていると教室の前方から一緒に帰るはずの女とイルカ先生のそんな会話が聞こえてきた。特に内容を気にするでもなく、鞄のファスナーを閉め持ち手を肩に掛ける。
「ナナ、帰るぞ」
「あ、待って!先生ばいばい」
「おう、また明日な」
イルカ先生に手を振ってぱたぱたと自席に走るナナ。ひらひら揺れる短いスカートが何だか危なっかしい。机の上の鞄を掴み、中に手を突っ込むとごそごそと何かを探しながら俺に向かって歩いてくる。
「あ、あったあった」
鞄から小さな赤い箱を取り出すと「ん」とぶっきらぼうに手を突き出された。これは何かと目だけで尋ねるも、答える気はないらしい。諦めて素直に受け取ればそれは良く見知ったもので。
「酢昆布?」
「うん、誕生日おめでとー」
「あぁ…そういうことか、さんきゅ」
「どう致しまして」
にこりと笑うナナに自分も笑みを返す。じゃあ帰るか、と教室のドアを目指して足を踏み出した。数歩歩いたところで後ろからコホンと小さな咳払いが聞こえ、振り返るとナナはまだ窓ガラスを背におれの席の前で突っ立っている。
「帰らねえの?」
「何か気付きませんか?」
「は?」
質問に質問を返されて思わず首を傾げる。ナナの言う何かとは何なのかがわからずひたすらに彼女を観察していると、耐えかねたナナがぴらぴらと制服のリボンを揺らした。何の変哲もない只の学校指定の赤いリボン。しかし。
「…珍しいなお前がリボンしてんの」
なるほど、さっきイルカ先生と話してたのはこのことか。イルカ先生がどんなに「リボンを着けろ!」ときつく言ったところで聞く耳持たなかったナナが今日に限ってリボンを着けているなんて。
「今日はシカマルの誕生日だからね」
「あー、だから正装?」
「ちっがぁーう!」
「…?、じゃあ何だよ」
シカマル本当に頭いいの?なんて、じとっとした目を向けてくるナナ。知るかそんなこと。答えを待っていると少し言いづらそうに俺から視線を逸らし、そして頬を赤くして漸くごにょごにょと喋り始めた。
「ぷ、プレゼントはわたしってヤツよ」
「プレゼントっておま……ぶはっ!わかりづれぇよ!」
制服のリボンはラッピングのつもりだったらしい。思わず吹き出してしまった。予想以上に恥ずかしかったのか、真っ赤になった顔を両手で隠してあーとかうーとか言ってるナナは何だかかわいらしい。
「ちなみに酢昆布のオマケ付き…」
「あぁ、こっちがオマケだったのか」
「な…!当たり前でしょ!」
「くくっ…冗談だよ、怒んなって」
笑って手を差し出せば、ナナは膨れながらもしっかりと俺の手を握り返した。その手を軽く引き寄せ、よろけた体に手を回す。すっぽりと腕に収まった“プレゼント”は何だか少し熱っぽく感じた。
リ ボ ン
「有り難く頂きます」
「っ、…それでよろしい」
「……ぷ…くくっ…」
「笑うな!」
>> Happy Birthday Shikamaru 2010