「…(あ、あれ魚みたい)」


何となく。
本当にただ何となく。
空に浮かぶ雲を眺めていた。


「おい」


ビラビラと顔のすぐ横で紙が揺れる音が聞こえて、はっとして声の方を向くと前の席のシカマルが面倒くさそうに配られたプリントを差し出していた。ごめん、と一言謝ってプリントを受け取り自分の分を取ってまた後ろに回す。


「何ボーっとしてんだよ?」
「いや、ちょっと…」


言葉を濁すと「ふーん」と眉を顰めて首を傾げられた。そのまま前に向き直ったシカマルの後頭部にため息をついて、再び空を見上げる。あたしがボーっとしているのは貴方のせいです。なんて、言えるわけが無かった。空を見上げたあたしの視線は無意識にさっきの雲を捕らえている。魚の形をしたその雲は広い空にポツンと一匹だけ浮かんでいて、まるで群からはぐれてしまった魚の様に思えて仕方がなかった。


「……(迷子じゃん、あいつ)」


可哀相なヤツ。しかし他人事(というか人ですらない)である。哀れだとは思うがどうでもいい。…と思った直後、頭に浮かぶもう一つの思考。アイツあたしに似てるかもしれない。迷子という点で、だ。そう思えば、あの雲にも情が湧いて来るというもの。寂しくないようにあたしが一緒にいてあげる。声にしたところでここからじゃあ届かないだろうと思い、念を送ってみた。


「今度は百面相かよ」
「!」


それをシカマルに見られていた。
恥ずかしすぎる。


「もうホームルーム終わったぞ」
「え、うそ…!」


教室を見回すと確かに彼の言うとおり、生徒の数はまばらだった。そんなに本気であの雲について考えていたのかあたしは。大丈夫かあたし。いい加減今後の自分の在り方についてマジで考えるべきなのかもしれない。


「よし」


授業中に届いていた他校にいる彼氏からのデートのお誘いに断りのメールを送信してケータイの電源を切った。


「シカマルくん、シカマルくん」
「気色わりぃ呼び方すんな」


席を立ち鞄を肩に掛けて今にも帰ろうとしているシカマルを呼び止める。きちんと机の下に仕舞われた前の席の椅子を引き出して、そこへ座るよう促した。渋々(本当に渋々)椅子に腰を降ろすと訝しげにあたしを見つめた。


「少しあたしとお話しよう」







(あたしの気持ちはドコにある?)



「まず、人の気持ちの移り変わりについてどう思う?」

「はぁ?」






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