ちょっとした不注意が原因だった。ガチャンと、洗ったグラスを拭いている途中に床に落としてしまったのだ。落ちたグラスは床に叩きつけられていくつもの透明な破片となる。やってしまった、とため息をついてしゃがみ込む。


「おい、大丈夫か」


将棋をさしていたシカマルが音を聞きつけてひょこっと顔をだした。破片を拾いながら大丈夫と顔を上げた瞬間、指先に鋭い痛みを感じた。手元に視線を戻すと指先がきれいに切れて血が滲んでいた。手元を見ずに破片を拾おうとしたのがいけなかった。


「ドジ」
「…うっさい」


後は俺がやるとシカマルが私の前にしゃがみ込む。ごめんと一言謝って、シカマルに拾われていくガラスを見つめた。そしてきらきら光るそれがきれいで羨ましいだなんてバカな事を考えているうちに片付けは終了した模様。


「ありがとう」
「ん」


短い返事の後シカマルは私の手を取り傷口に目をやると眉を顰めた。痛そ…そう呟いたかと思うとそのまま私の手をゆっくりと口元に引き寄せ、ぱくっと傷のある指をくわえた。


「っ、シカマル…?」
「消毒してやるよ」
にやり。歪んだ口元に心臓がうるさく反応する。口を離された指先は濡れていて外気が触れるとそこだけ冷たい。指先から目を離せずにいると今度は傷口を熱い舌がなぞった。


「…っ」


冷えた指先は一気に熱を持ちじわじわと熱が広がっていく。そして再びくわえられると私には見えない口内で舌が指を弄び始めた。ザラザラとした感触に目を細める。吐き出す息が熱い。

「エロい顔…」


満足そうに呟くシカマルに誰のせいだと言い返したいのに言葉は出なかった。お互いの視線が交差したまま舌は指の腹をなぞり指の付け根に到達する。ぞくぞくと体の芯が震えて、べろりと掌を舐め上げられるとぴくんと肩が跳ねた。


「…そこはケガ、してない…っ」
「念の為だよ、念の為」
「……」
「ほら、もう傷は大丈夫だぜ」


自分の掌越しに見えたシカマルの妖艶さにめまいを覚える。もう熱いのは掌だけではなかった。体中が、熱い。シカマルはいつだってそうやって簡単に私の頼りない理性を溶かしてしまうんだ。








(…バカ、私自身が大丈夫じゃない)
(仕方ねぇな、どうして欲しい?)






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