project by 10000


「つーかまえた!」

「いィやぁぁあぁあぁあ!!」

「そんなに喜ぶなよ、照れる」

「ベーーーンッ!!」



小柄な少女を片腕ながらがっちりと胸に閉じ込め頬擦りをする赤髪のシャンクス。世間一般では四皇と恐れられている男のあまりにもそれらしくない振るまいに他の船員達からは苦笑が漏れる。



「ってか頬擦りやめて!髭がじょりじょりして気持ち悪い!」

「ん?もっと?」

「きゃあああ耳鼻科行け!」



やめてやめてと暴れる少女の名はナナ。数週間前にひょんなことから赤髪海賊団に入団した新米クルーである。



「やめてって言ってんでしょエロオヤジ!」

「そのエロオヤジに惚れて周囲の忠告も聞かず海賊なんかになっちまったのはどこのどいつだったかなー」

「〜〜〜〜〜〜っ!」



それを言われてしまってはナナは何も言い返せない。ぼんっと顔を真っ赤にしたかと思えば俯いて大人しくなる。



「ははは!後悔先に立たず、だな!」

「自分で言うな!」



とりあえず腕の中からの脱出を試みるナナだったが、力を込めてシャンクスの胸を押してみるも彼は「弱い弱い!」と笑うばかりでびくともしない。

最近では日課になりつつあるそんなやりとりの最中、大きな爆音とともに船体がぐらりと傾いた。



「敵襲みたいだな」

「…ほぉ、
 うちにケンカを売るか」



いつもと何ら変わらず落ち着いたベンの言葉に、シャンクスは楽しんでいるようにも見える不敵な笑みを浮かべた。



「ナナ、今から戦闘になる。
 お前は部屋に戻ってろ」



ぽんとナナの頭を一撫でして既に騒がしくなっている船尾へと歩き出すシャンクス。しかし、後ろからくいっと遠慮がちに服を引かれてその足を止める。振り返れば不安を顔いっぱいに浮かべ自分を見詰めるナナの姿。

この船に乗って、どころか人生で初めての出来事にナナはじわじわと込み上げる恐怖を隠せずにいた。

そんなナナを見てシャンクスはふと表情を和らげる。



「ベン」

「ん?…あぁ。
 構わん、側にいてやれ。
 どうせアンタが出る程でもねェさ」

「そうさせてもらうよ。
 向こうは頼んだ」



すぐに状況を読み取ったベンは軽く後ろ手を挙げ、再び船尾へと足を進め始めた。その背中を見送ってナナへと視線を戻す。



「……ごめん…」



俯いて、本当に申し訳なさそうに今にも泣き出してしまいそうな声で小さく呟くナナ。シャンクスは弱々しく震えるその肩をそっと抱き寄せ、ぽんぽんと優しくあやしてやる。



「なぁに、気にするな。
血の気の多い奴らだからな、おれは居ない方がかえって好都合なのさ」

「でも…」



さっきまでの威勢はどこへやら。しゅんとしおらしく項垂れてしまったナナ。自分はおれ達にとって足手まといなんじゃないか。そんなことを考えているに違いないと、シャンクスはナナの頭に手を置き、わざと大袈裟に髪を掻き乱す。




「お前はお前に出来ることをしてくれりゃァいい。一度船に乗せた以上何があろうとナナはおれが守ってやる」



シャンクスの言葉にナナは驚いた様な顔を見せ、そのまま固まったかと思えばそれはみるみるうちに赤く染まっていった。



「なに、かっこいい事言ってんの
 …シャンクスのくせに」



視線をさ迷わせながらぼそぼそと喋るナナの頬はまだ赤い。一言余計だとシャンクスがその頬を摘まめば、いひゃいいひゃいと顔を歪めながらもやっと少し笑顔を見せた。余裕を取り戻し始めたナナに安堵し、頬から手を離す。



「…シャンクス、」

「ん?」



こつん。シャンクスの胸に遠慮がちに額を預け、甘えるようにその腰に腕を回すナナ。予想外の出来事に情けなくわたわたと宙をさ迷う四皇赤髪の隻腕。

しかし自分の胸に埋められていた少女の顔が自分を見上げ、形のいい唇が言葉を紡げばシャンクスの腕は思うよりも早くナナの身体を抱き締めた。







(やっぱり貴方の事が好きみたいです)





「おいおいおい、おれ達が敵船相手にしてる間に何イチャついてんだよお頭ァ」

「ち、違うぞヤソップ、これには深い理由が――――」

「ヤソップ助けてー」

「!おま、…ナナ!」

「おうっ!安心しろナナ、すぐにそのエロオヤジから助け出してやるからなー」

「ば…っ、乗るなヤソップ!
 銃をしまえ!」






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