「どう?」

「いいじゃんいいじゃん!」

「本物より少し小さいが、他は完璧だろ」

「すごいすごい!おれがもう一人いる!」


今日は我らが船長トラファルガー・ローの誕生日だ。わたし達クルーは船長の誕生日祝いと称して飲めや食えやのばか騒ぎをするため着々と準備を進めている。そしてこれもその一環。ハイクオリティベポ1号(…名付け親はわたしじゃないよ、ペンギンだよ)。ただのキグルミである。しかし、もふもふとベポに目がない船長にはたまらない品物だろう。


「これで可愛くお願いしたらちょっとくらいハメ外したってローも許してくれるよね?」

「…ってかベポが直接頼んだ方が早かったんじゃね?」

「キャス、ベポだって男だ。可愛く“お・ね・が・い(はぁと)”は言えないだろ」

「そ、そうか…(ペンギンきもい)」

「あ、みんなキャプテンが出てきたよ!」


ベポの声に慌てて物陰に隠れるわたし達。上手くやれよ、とペンギンに小さなブーケを渡される。任せといてとウィンクをして(あ、キグルミ被ってるからウィンク見えないじゃん)その場を飛び出した。

慣れないキグルミに多少もたつきながらローの元へ駆け寄る。足音でそれに気付いたローはこちらを振り返って少し考えてから首を傾げた。


「ベポ、お前…少し縮んだか?」

「えっ?や、やだなぁー気のせいだよ!そんなことよりロー誕――」


やば、早速やっちゃった!ベポはローのことキャプテン呼びだったじゃんかわたしのばかああ!ば、バレたかな…?


「“ローたん”…?」

「あ、いや…キャプ、テン…」

「ふふ…照れるなベポ、いやベポたん。“ローたん”でいいぞ」

「……(バカで良かった!)」


ふふ、と満足そうににやけながら頭を撫でてくるロー。これが残忍で名の通った2億のルーキーだなんて何かの間違いじゃないか。残忍じゃなくて残念で名が通っている…とか。



(ここからじゃよく聞き取れねーな)

(まぁ、でも今のところバレてはいないみたいだな)

(…キャプテンのあの顔、なんか嫌だなぁ)




「で、おれに何か用か?」

「あ、…コレ!」

「花?」

「誕生日おめでとう!」


ぱっと、後ろ手に隠していた花を出してローに差し出す。少し驚いた様子のローは花とわたしを交互に見て、おれにか?と尋ねるように自分で自分を指差した。うん、と頷けばローは口元を手で押さえて肩を震わせる。


「お前ってやつは…!」

「きゃ…っ」

「……!?」


勢いよく抱きつかれたせいで、本物のベポのようにローの体重を支えられる筈もなくわたしたちは甲板の床に倒れ込んだ。キグルミのお陰で大して痛みはなかったものの、今わたし…やらかした?



(((あ!!)))

(大丈夫かナナのやつ!?)

(…あいつ今“きゃっ”て言わなかったか?)

(言ったかも…バレちゃうかなぁ)

(バレるだろ)

(バレたら船長怒る、よなぁ)

(騙そうとしたわけだし、怒るだろうな)

(((はぁー……)))




「…“きゃっ”てお前…」


あわわわやっぱり!今度こそバレた!わたしのばか!ご、ごめん、みんな…!楽しい宴会は諦めて!


「メスだったのかベポ!!」

「………」


ええええええええええッ!!!!??
バカだバカだとは思っていたけどここまでくるともういろいろ通り越して心配になってくる。今後のわたし達のためにも一回どこかで医者に診てもらった方がいいんじゃないだろうか……


「悪かったな、今まで気付いてやれなくて……」

「いや、あの…」

「服もツナギなんか着たくなかったよな」

「だから…」

「おい、誰か!ドレスだ!ヒラヒラのフリフリ持ってこい!」


馬乗りの状態でツナギに手をかけられ脱がされそうになるのを必死で止める。脱がされて露になるのはキグルミなのだからなんてことはないのだけど、ベポのためにも、これ以上船長の尊厳を失わないためにもツナギは死守しなければ!



(ねぇ、キャプテン何してんのあれ!なんかおれ鳥肌とまらないんだけど!)

(いや、熊に鳥肌は変だろ!)

(すみません…)

(…様子がおかしいな)

(バレたんだろ!キグルミ脱がして確かめる気だよ船長!どうする、おれ達またバラバラにされちまう!)

(落ち着けキャス。キグルミ脱がすなら頭に手かけるだろ。船長が脱がそうとしてるのはどうやら服だ)

(何で!?)

(ごめん二人とも…おれ、もう無理…!)

(あ、おい!ベポ!)




「やだ、やめて…!」

「…!」

「お願い…」

「…っ!!」

「キャプテン、」

「ベポ、大丈夫だ…優しくしてやる」

「え」



…何言ってんのこの人?え。なに?何で顔近付けてくんの?え?え?ちょっと待ってもしかしてこれキ―――



「アイイ――――ッ!!」

「ぐふぅ…ッ!」

「ベポ!?」



唇が振れる数センチ手前。突如現れたベポによりローは船の端まで蹴り飛ばされた。ベポにより引き起こされたわたしは震える彼にぎゅうううっと抱き締められる。


「ベポが ふた、り…だと…?」


がくり。どうやらローは気を失ったらしい。自分の部下に蹴り飛ばされたにも関わらず彼の顔が幸せに満ちていたのは見なかったことにしよう。

こうして我らが船長、トラファルガー・ローの誕生日は船員達の疑念を深めるだけ深めて幕を閉じたのだった。







「なぁ、ベポは双子だったのか?」
「……(何でこの人はベポに関してこんなにメルヘンなんだろう)」







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