今日は船長の誕生日ということでついさっきまでハートの海賊団総出でどんちゃん騒ぎが行われていた。甲板には酔いつぶれたクルーやら酒瓶やら食器やらが散乱している。
そんな中わたしとローは船縁に肘を付き夜の暗い海を眺めていた。
「‥あのね、さっき渡しそびれちゃったんだけど、これ…」
ポケットに入れた手をローの視線が追う。少し緊張しながら目当てのものを取り出すと、それはしゃらんと小さな音を奏でて姿を現した。
取り出したのはわたしからローへのプレゼント、ビーズで作ったネックレス。ペンダントトップには小さな十字架を選んだ。
「ここから先はもっと危険な航海になると思うから、お守りに」
「…おれは神になんか祈らねェぞ」
十字架に指を這わせながらローは神を嘲笑う。それなのにそんな言葉とは裏腹に十字架を見つめる彼の目はどこか優しさを孕んでわたしをどきどきさせた。
「…知ってる、よ。…だから、代わりにわたしが祈っといた」
へぇ?十字架を見つめていた目がわたしに向けられる。同時に頬に伸びてきた手は夜風に吹かれていたためか少し冷たい。
「なぜ、そうまでしてくれる」
小首を傾げるようにして訪ねてくる彼の唇は緩く弧を描き、頬に触れているのと逆の手はするりと腰に回された。
「わかってるくせに」
「お前の口から直接聞きたい」
骨ばった親指に唇を撫ぜられれば薄く開いたそこから愛しさや切なさ彼に対する感情全てが溢れ出しそうで、どうしようもなく泣きたくなった。
少しだけ滲んだ視界の中でローは変わらず優しい顔でわたしの答えを待っている。
「…ローが好き、だから‥
ずっと一緒にいたいから…だよ」
たぶん声は震えていたけど、何とか言葉にするとローは満足気にそうかとだけ呟いた。
そしてそのまま愛しそうに自分を見つめる二つの瞳が何だか擽ったくて、逃げる様にローの胸に顔を埋めた。するりと髪を撫でられその心地良さに目を閉じる。
今感じている温かさこそわたしにとって一番大切なもので、この先もきっと何よりも守るべきものなんだろうと思う。
「ナナ…せっかくだ、これはお前の手で着けてもらおうか」
さっき渡したネックレスをローから受け取り、その首へと手を回した。手探りで金具を留めて手を離せば彼の胸元で十字架が鈍い光を放つ。
「ロー、誕生日おめでとう」
「あぁ」
「来年の誕生日も一緒にお祝いしようね」
最果てに望むもの
今と同じあなたの笑顔、それだけでいいと願うわたしは欲張りですか