ペンギン曰く、次に着くのは夏島であるらしい。だからこんなに暑いのか。甲板に出来た僅かにして唯一の日陰にぎゅうぎゅうと自身の体を押し込むわたしとベポとペンギンにキャスケット。この密度こそが現在の不快感の一番の原因であることは明白。
「お前一番薄着なんだから出てけよ」
「はぁ?ただでさえ海上暮らしで日焼けしてるのにこれ以上焼けてこいっていうの?」
「今更気にすることじゃねェだろ」
「だからアンタはモテないのよ」
「おいお前ら、頼むから静かにしてくれ。暑苦しい」
ペンギンに言われてそれもそうだと口をつぐむ。ベポなんかはもうピクリとも反応を示さない。生きているのだろうか。
「だらしないぞお前ら」
あぁ、また暑苦しいのが来た。この気候でよくもそんなパーカーを着て涼しい顔をしていられるものだ。
「ねぇ…ソレ、見てるわたし達苦しいから脱げば?」
「おれの裸が見たいと?」「言ってねェよぼけかすはげ病院行け」
「まぁそう言うな、今回はお前らにいい知らせを持ってきた」
「どうせまたろくでもないを事だろうと全員が溜息を吐いたが船長は気にせずに続けた。
「今度の島にはデカい海水浴場があるらしい」
ほらやっぱりね。毎日海の上にいるし、無人島でエメラルドグリーンの海をプライベートビーチの如く堪能したこともあったというのに、海水浴場如き何を今更…
「デカい海水浴場…大量の水着ギャル…!」
暑さに項垂れて耳だけで話を聞いていたキャスケットががばっと顔を上げる。その際ペンギンがぴくりと地味に反応したのをわたしは見逃さなかった。これだから男という生き物は。みんな海に沈めばいいのに。
「そこでだ、おれからお前にプレゼントがある」
「へぇ、めずら、し……」
ばん!という自前の効果音付きで船長が突き出してきたのは極端に布面積の少ない白ビキニ。
「その適度に焼けた肌には白がよく映えることだろうよ」
「きもい」
「船長、それこいつには着こなせないっすよ」
「ばかめ、小慣れてない感じがいいんだろうが」
「だからきもいって」
「それ以前に体型の問題だろ。色はいいとして、もっとこうトップにボリュームがあって、ひん……体型をカバー出来る様な水着の方がいいんじゃないか?」
「おい、コラ」
貧乳って言いかけただろテメェ。ペンギンの胸倉を掴めば、いいがかりだと言われたがとりあえず殴っておいた。
「おれは浜辺の男達のイヤらしい視線に晒されるお前が見たいんだ!」
「どんな性癖だ死ね!」
船長の手からいかがわしい水着(もはや水着と呼べるような代物ではない)を奪い取り海へ投げつける。ばちゃんと思いの外大きな音がして海面に叩き付けられた水着はぷかぷかと海を漂った。とっとと沈んでくれ。
「おい…!」
珍しく焦ったような表情をしたかと思えば次の瞬間。軽やかに船縁を蹴って船長が海へ飛び込んだ。救いようのないバカだと思った。
悲しいかなこれが
愛すべき
僕らの日常生活
「船長!あの人カナヅチだろ!?何考えてんだよ!!」
「水着のことしか考えてないよ」
「…キャスケット、早く助けに行け」
「えぇーおれかよ…今の船長には極力近寄りたくねーな」
「「同感」」
※元拍手お礼文
20100721〜20100827