ぬるり。


堅く閉じた筈の唇は無理矢理抉じ開けられて柔らかくなま暖かいものが口内へと侵入する。必死の抵抗も空しく器用に絡めとられた舌先。せめてもと思い至近距離にある挑発する様な双眸を睨み付けてみるも、それはかえって相手を喜ばせるだけにすぎなかった。


執拗に続けられる舌から舌への愛撫に呼吸もままならなくなり、ローの胸を押し返す。しかし此方が力を込めれば込める程に相手の力も強くなるのだから敵う筈もなかった。


しっかりと抱き寄せられている腰。抱え込む様に押さえつけられた後頭部。溢れた唾液が顎を伝う。




「ん…っ、も…やめ…ッ」


「……まだだ」




唇が触れたまま、吐息混じりに呟かれた言葉を飲み込めばぞくりと背筋が震えた。朦朧とする意識の中で僅かではあるが確かな昂りを感じ、同時にざわざわと身体中が騒ぎ出す。




「…ナナ…」




キスの合間に空気を揺らし鼓膜に届く掠れた声が最後の理性を溶かしていく。


ローの服を握りしめていた手はゆっくりと彼の肩を滑りその首に巻き付いた。あぁ、何だかんだわたしはしっかりと目の前の男に欲情しているらしい。




「フフ…もっとだ、

 ――もっと俺を求めろ、ナナ」




後頭部をしっかりと固定していた手からは力が抜かれ、ゆるゆるとわたしの髪を撫で始める。ほんの数秒前まではあれほど強引に絡めてきていた舌も今では誘うように舌先が軽く触れる程度だ。


その動きが酷くもどかしくて、でも自分から行動を起こす勇気もなくて縋るような視線を向けてみても行為に変化はみられない。


代わりにもう一度低く名前を呼ばれて“早く来い”と催促された。仕方なくおずおずと舌先をローのそれに絡めてみる。あまりの羞恥心で頭がおかしくなりそうだと思った。




「上出来だ」




そう満足気に笑ったかと思えば、再び舌を捕らえられ激しく攻め立てられる。熱の篭った互いの吐息、独特の水音、触れ合った皮膚から伝わる相手の体温、果ては自分から漏れる声にすら欲を煽られてどうしようもなくなっていた。


流れるような動作でベッドに身体を沈められ、まだまだ足りないと互いを求め合うようなキスは続く。


息苦しさと切なさ、まだ残る僅かな気恥ずかしさと言葉には表せない曖昧な快楽。様々な感情が入り交じった一粒の涙が頬を濡らしたところで一度唇が離れた。


もう一度二人の唇が重なるまでの短い時間、ローの薄い唇は緩く弧を描いて私の胸をきゅうっと締め付ける。







先で愛を転がして

“愛してる”と紡ぐ唇に
そのまま全てを差し出した








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2010.08.03



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