Project by valentine ー2010ー
ハートの海賊団の場合





「ハッピーバレンタイーン!」


どこまでも続く青い空の下、日頃の感謝の意も込めて発した言葉に甲板中がどよめいた。みんなシャイだからな。中でも肩を震わせて喜ぶキャスケットと、照れすぎて完全聞こえない振りをしているペンギン、熊のくせに狸寝入りなベポ達3人は筋金入りのシャイボーイだと思う。キャスケットの肩をとんとんと叩けばぎぎぎと錆びれたロボットのようにぎこちなくこちらへ首を向ける。その手を取りピンクのリボンのついた包みを手渡した。


「げっ、」
「ちょっと、何その反応」
「調理場の謎の爆発、クルー達を襲った激しい腹痛…恐ろしい事件だった」
「ペンギンまで、去年はちょっと失敗しちゃっただけじゃない」


そんな言い合いをしている横で狸寝入りを続けるベポ。ベポの大きな体にまたがり肩を揺すってみる。


「ベポー、チョコだよー」
「………ぐぅ」
「……仕方ないな、私が食べさせてあ・げ・る」


綺麗にラッピングした包みからチョコを取り出しベポの口に突っ込む。初めは頑なに拒否していたが、やがて薄く開いた(開かせたとも言う)隙間にチョコが落ちて喉を通ったのがわかった。


「あれ?…おいしい」
「でしょでしょー!?」


おいしいと言ってもらえたのが嬉しくて思わず頬ずりをしたけど、彼は既にチョコに夢中で私には目もくれない。そして素直に喜んでくれたベポとは違い二人は未だに包みを凝視している。二人ともうっかり足をすべらせて海に落ちればいいのに。


「何だ、騒がし…い…―――」


甲板のうるささにキャプテンが様子を見に部屋から出てきた。しかしキャスケットとペンギンが持つ包みと、ベポの口に付いたチョコ、最後に私を見て、そして静かに踵を返す。…って、逃がすかコノヤロー。


「キャプテン!」
「……」
「はい、どーぞ」


腕を捕まえにっこりと包みを差し出せばピクリと反応する眉。あからさまに嫌な顔をされた。


「今年は大丈夫ですから!」
「あれだけの大事件を起こした前科者がそんな簡単に更正できるわけがない」
「………」


海賊にそんな説教されるなんて。みんな昔の失敗を引きずりすぎだ。失敗は成功のもとって知らないのだろうか。唇を尖らせてみせたら一言、うぜぇと返された。


「おいしいのに…」
「なら、安全だという証拠を見せろ」


そう言って私から包みを一つ奪ったキャプテンはしゅるしゅると包みのリボンを外して、中身を一粒取り出した。そしてその一粒を私が口を開けるのを待たずに突っ込む(デジャヴ!)。むぐぉ、と女の子らしからぬ声が出た。突っ込まれたチョコは少しずつ溶けて、口内に広がる。甘い。


「……、何の問題もなく世界一おいしいと思いますが」
「そうか、どれ…」
「んむっ!?」


がしっと後頭部を鷲掴みされたかと思うと次の瞬間唇が重なる。直後何の遠慮もなくそれが当然だとでも言うように口内に舌が侵入してきた。何が起こっているかぐらいは把握しているつもりだけど、何故こうなったのかはまったくもってわからない。


「ん…ふ……っ」


キャプテンの肩を押してみるも腕が震えて思うように力が入らず、最終的には縋るように服を掴む形になった。尚も荒らされている口内。だんだんと呼吸も苦しくなってきた。
やっとその行為から解放された時には、膝がかくんと折れ情けなくもへたりこんでしまった。息苦しさと緊張から心臓は壊れそうな程音をたてている。


「ふふ、悪くない」

頭上から降ってきた言葉に顔を上げれば、ごちそーさんと満足気に笑うキャプテンの顔。眩しすぎて目眩がした。



Happy Valentine



「あ!ナナが倒れたよ!」

「なぁなぁ、今船長がこっち見たのは安全だから食べていいぞってアイコンタクト?」
「そんなわけないだろうキャスケット。ちょこ貰ったくらいで勘違いすんなってことだろ」
「……だよな。船長も可愛いとこあんだな」
「あぁ」

「ねぇ二人とも、ナナが……」




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