「声、尻、足」



女は男の投げかけた質問に必要最低限の文字数で答えを返す。



「……お前はオヤジか」

「何よ、何か不満でもあるの?」

「この状況でその答えに不満がないなんてヤツがいるなら是非ともお目にかかりたいものだ」



草木も眠る丑三つ時。船員もみな、先の宴で酔いつぶれ眠ってしまった。そんな中波の音だけが小さく聞こえる船長室でベッドの上に男女が一組み。組敷かれる女と組敷いている男。



「大体お前、襲われかけてるってェのに随分余裕じゃねーか」


少しは抵抗でもしてみせたらどうだという男の言葉に女は心底不思議そうに首を傾げた。


「ローに迫られて嫌がる女なんているの?そっちの方がお目にかかってみたいけど」


正しく酔った勢いで作られたこの状況下、女は顔色一つ変えず男を見上げている。今まで抱いた女達はどいつも初めは形だけの抵抗を見せる。目は物欲しそうに自分を見つめているのに、だ。その矛盾が酷く滑稽だといつも心の内で嘲笑ってきた。男は今までの記憶を辿りながら女を見下ろす。それなのにコイツは。


「…やめだ。萎えた」

「それは残念」


組敷いていた女から体を離し、ベッドを立ち上がろうとしたその瞬間。男の視界がぐらりと揺れて体全体に緩い衝撃を受けた。そして数秒後、安定した視界に映ったのは天井と自分を見下ろす女の不敵な笑み。


「今度はわたしの番」

「…ほォ?おれの上に跨るとはいい度胸じゃねェか」

「どーも」


海までもが眠ってしまったかのように小さな波の音すらも消えてしまった今、研ぎ澄まされた聴覚には互いの声だけがやけに大きく聞こえた。女は組敷いている男の喉元に細い指を這わせながらゆっくりと口を開く。


「わたしの好きなトコ、教えてよ」

「顔、首、指」


男は女の投げかけた質問に必要最低限の文字数で答えを返す。



「ありきたりね」

「文句あんのか」

「別に」



わざとらしく肩を竦めて見せる女に男は下から手を伸ばす。



「でも一番は、」



くるり、今度は女の視界が反転した。特に驚いた様子も見せずに男の言葉の続きをじっと待つ。



「おれに惚れてるってトコだ」



いつものように口端を片方だけ上げて見せる余裕の笑み。するりと服の隙間から滑り込んだ手は女の肌を撫で上げ、それに合わせて少しずつ服も捲れていく。徐々に露わになる白い肌。



「偶然ね、わたしもローの一番好きなところはわたしに惚れてるってトコなの」



ぐい、男の首に腕を絡めてぎりぎりまで引き寄せ挑発的な視線を向ける。唇同士が触れるか触れないかくらいの微妙な距離。



「気が合うな」

「そうね」



唇はまだ触れない。男の手が厭らしく女の身体を這うだけ。



「そう言えば…萎えたって言ってなかったっけ?」

「忘れた」






合わさる唇と溶け合う体温に溺れる




「都合いいのね」

「いいから集中しろ」








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