用心はしていた。それでも引いてしまったものは仕方がない。今あたしに出来ることは仲間達に移さないよう、おとなしく部屋にこもって出来るだけ迅速に風邪を治すこと。
それなのに。
「頭沸いてるんですか?」
息苦しさに目を覚ませば腕組みをし、ニヤニヤとイヤらしい目つきで自分を見下ろすキャプテンと目があった。軽蔑の意志を込められるだけ込めて冷たい視線を向けてもどうやら逆効果だったらしい。キャプテンは嬉しそうに口元を歪めた。
「失礼な、おれは至って普通だ」
「普通の人は風邪で寝込んでる女の子の上に跨ったりしないんだよバカか」
そう言い終わってすぐ、キャプテンの眉がしかめられる。バカ、という言葉に反応したのだろうか。じっと目を見つめられて怯みそうになったが、あたしは悪くない。負けるもんかとぐっと眉間に力を込める。
「…もう一度言ってみろ」
「謝りませんよ、あたし」
「いや、鼻声での罵倒ってそそるな」
泣きそうになった。船長に向かってバカとは何事だと怒鳴られた方がまともなことを言ってる分マシだっただろう。何でこうも真顔で変態くさいことを言ってのけるんだうちのキャプテンは。顔だけはいいのに中身がこうも残念なのが本当に残念だ。
「セクハラで今すぐ海軍に捕まってください」
「船長になんてこと言いやがる」
「そして拷問されろ」
「お前がシてくれるなら喜んで」
本当にだれかこの人海に投げてきてくんないかな。ベポでもペンギンでも、この際キャスケットでも構わないから。あーもう何か熱上がった気がする。
「…あたしなら、苦しむ間すら与えないですぐさま楽にしてあげますよ」
「愛されてるな俺は」
「はいはい愛してるから、頼むからそこをどけ」
「ふん、これだけ喋れるなら心配はいらないな」
ふと、目を細めたキャプテンの手が額へと伸びてくる。あたしの熱を測る様に数秒額で停止して、何かを納得したらしいキャプテンは小さく頷くとそのまま2、3回優しくあたしの頭を撫でた。
「キャプテン…?」
「すぐによくなる」
頭を撫でていた手がするりと頬まで降りてくる。さっきとはガラリと変わったキャプテンの雰囲気に正直戸惑いを隠せなかった。もしかして今までのバカげた言い合いもあたしを元気付けるためのものだったのかもしれない。だとしたらあたしは……
ギシッ。
頬に触れる手はそのままに、顔の横にキャプテンのもう片方の手が置かれる。
「―――え?」
「だから取り敢えず、」
黙って俺に抱かれとけ
……キャプテン、
やっぱり死んでください!
一瞬でもキャプテンを見直し、一瞬でもキャプテンにときめいた自分を心の底から可哀想だと思った。