今日の海は荒れていた。大雨、雷、強風に高くうねる波。暗い空に黒い海。わたしはそんな海を眺めるのが好きだった。仲間には危ないから止めろと何度注意されたかわからない。それでもまだ一度も危ない目にも痛い目にもあっていなかったわたしは荒れた海が怖いものだとは思えなかった。むしろその力強さに憧れを抱いた程だ。


「おい、そこのバカ女」
「あ、ロー船長」


呼ばれて振り向けば、おれは今不機嫌だと顔に描いてあるようにわかりやすい表情をした船長が立っていて。ぐい、と腕を引かれたかと思うとそのまま船長室へと連れ込まれた。もう少しあの海を見ていたかったと、ドアが完全に閉まる直前まで荒れた海を見ていた。


「死にたいのか」
「まさか」
「じゃあ何でこんな日に船の先に立ってるんだ」
「荒れた海を見るのが好きなんです」
わたしの答えに船長は顔を手で覆って盛大にため息をついた。わたしは何か変なことを言ったのだろうか。


「二度とこんな真似するな」
「大丈夫ですよ、」
「聞こえなかったか?」
「………はい」


有無を言わさないその視線にしゅんと小さくうなだれるしかなかった。ダメだと言われたばかりなのに船を打ちつける雨音に胸がざわつく。船長室の窓から見える波に胸が躍る。窓の前まで行き、ぺたと窓に手を置いて外を見るわたしに再度後方からため息が聞こえる。ギシ、と椅子を立つ音が聞こえて数秒後、船長の腕がわたしの身体を背中からそっと包んだ。


「…ロー船長?」
「お前が海に落ちても俺は助けに行けない」
「わかって、ます」
「俺はそれが怖い」


窓ガラスに映る船長は真っ直ぐ海を見つめていた。耳元で声を聞きながらその表情に見入っていると、ガラス越しに視線がぶつかる。


「何も出来ずにお前を失うようなことがあれば俺は俺を許せない、」


俺自身を殺すだろうな。

わたしを抱き締める腕に少しだけ力が込められた。目を逸らすことなくそう告げられて荒れた海を外で眺めるという行為を初めて反省した。胸の辺りで交差する船長の手に自分の手をそっと重ねる。


「…約束、します」
「あぁ」
「二度とあんな事はしません」
「そうしてくれ」


そう言って肩口に静かに触れた唇はひんやりと冷たかった。もともと荒れた海に憧れを抱いたのはこれだけの強さがあれば何があっても大切な人を護れるだろうと思ったからで、その大切な人、当の本人にここまで言われてしまっては本末転倒だ。

ゆるりと腕を解いて後ろを向く。何も介さず合わさった視線にどちらからともなく唇を重ねた。






きみをなくさないよ
世界はきみを中心に回るから






title:空をとぶ5つの方法


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