「ねぇ、何が欲しい?」
「んー?ナナかな」
「何か好きなもの教えて」
「ナナ」
「…好きな、食べ物……」
「ナナ」
「…………」
会話が進まない。なぜわたし達が放課後の帰り道こんなに恥ずかしい会話(いや、恥ずかしい会話にしてるのはスガだ)をしているのかと言えば話は今朝まで遡る。
今朝、わたしは朝イチで彼氏の誕生日を当日になって知るというサプライズをいただいた。しかも東峰から。おはようと誕生日おめでとうを貰って「さんきゅーな」と笑顔を返すスガの隣でわたしはただただあんぐりと口を開けマヌケ面を晒していたのだ。
そしてこの会話に至る。今からでも何かプレゼントをと慌ててリサーチを始めたはいいが一向に欲しい結果は得られない。それと、一応言っておくけどわたしは食べ物ではない。れっきとした人間である。
「気にしなくていいって言ってるべー?」
「でも……」
付き合いだして初めての誕生日、流石にスルーはしたくない。何で事前に聞いておかなかったのか。でも誕生日なんてどんな話の流れで聞くの?恋人の を知るのに流れなんて必要ないんじゃ?ぐるぐるとそんな事を考えながらあーとかうーとか唸ってると隣から笑い声が聞こえた。
「変なやつ」
「だって最初の誕生日なのに……」
「いいじゃん、初々しいじゃん!知らなかったっていうのが付き合いたての誕生日っぽくて」
「えー、そういうもん?」
「そういうもんそういうもん。ここからお互いの事知っていく的な?ところでナナの誕生日はいつ?」
「それはずるい」
そうやって笑い合って歩く田舎道はいつもより楽しくて、ごちゃごちゃ考えていた難しいこともいつの間にか消えていた。代わりに考えているのはやっぱスガの事が好きだなーってことで。これが青春かなんて思ったりして。わたしも大概恥ずかしい奴だなって思う。
「…あ、やっぱほしいものあった」
「ん?なになに?」
「それ」
と、やぶからぼうに言い出した彼が立ち止まり指差したのはわたしの右手で。首を傾げるわたしがその意味にたどり着く前に答えは降ってきた。
「手、つなぎたい」
降ってきた答えを飲み込むのに数秒。 体温は上がって顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかった。
だめかな、と遠慮がちに聞かれぶんぶんと首を振って慌てて右手を差し出す。照れくさそうに笑って「じゃ、もーらい!」と握られた手にきゅうっと胸の奥までしめつけられた気がした。
6月13日
きみとたくさんの初めてに出会う