「マルコー!誕じょ――」

「うおおおおおマルコ隊長おおおおお!!お誕生日おめでとうございまああああああす!!!!」


 わたしの声を掻き消して体を押し退け、けたたましくモビーの背中を踏み鳴らし、我先にと本日の主役に駆け寄るのは1番隊隊員の男達。そんな、マルコに群がる彼らの背後で一人取り残されポカンと間抜けな表情を晒しているのがこのわたし。仮にもマルコの恋人である。


「おい、顔。間抜けにも程があんだろ」


 と。突如隣に現れた失礼なサッチを殴ることも忘れて「だって、あれ…」と、どんどん熱を増す人の塊を指さす。


「俺、ケーキ焼いたんスよ!」
「俺は寒がりな隊長のためにマフラーを!」
「マルコ隊長!一緒に写真撮りましょう!」
「あ、ずりィ!俺も!」


「って、女子か!!」

「ははっ」


 思わずツッコミをいれてしまったところでそれに反応したのは隣のリーゼントだけだった。人だかりの中心でマルコは一体どうこの人達に対応しているのだろうか。声はおろかその姿さえも今は確認が出来ない。


「今日は諦めろよ」

「はぁ?冗談じゃない」


 ポンと肩に置かれた手を払って腕捲りをすればサッチは「男らしいな」と笑った。
 大きく息を吸って、吐いて、もう一度吸って、息をとめ1番隊の中に突っ込んでいく。
 わぁわぁと盛り上がる男達の中でもみくちゃにされ気合いを入れて吸い込んだ筈の空気はすぐに吐き出してしまった。想像以上の過酷さに何かもういろいろ通り越していっそ笑えてくる。

 中に進めば進むほど激戦区となっていて少しでも気を抜けばすぐ外に弾き出されてしまいそうだ。そうならないように必死にふんばり人を掻き分け何とか足を進めていく。

 すっかり体温が上がりぜぇぜぇと息が切れ始めた頃やっと「ありがとよい」と穏やかに微笑んでいるのが容易に想像できるマルコの優しい声が聞こえてきた。もう少し、あともう少し。自分を励まし、逞しい腕と腕の間に頭をねじ込めばやっと見えたフリンジの飾り。マルコの足だ。やっとたどり着いた……。


「マルコ!」

「…ナナ?どうしたよい、そんなトコか――」

「誕生日おめでとう!」

「!」


 一瞬。ほんの一瞬だけマルコは目を丸くして、そして微笑んだ。「ありがとよい」と。はにかむようなその笑顔にきゅんと胸を締め付けられて、こみ上げてくる何かを言葉にすることも出来ずに、ただただ堪らずマルコに飛びついた。
 
 すると悪ノリした誰かが発した「ナナばっかずりィぞ!」を合図に次々と隊員たちがマルコに飛びかかる。さすがのマルコもそんな大人数を抱きとめられるはずもなく、わたしも巻き添えを食らう形でみんなしてモビーの背に倒れこんだ。


「おい、お前ら……重てェよい!!」
「マルコ、大好き!」
「俺も好きッス!」
「隊長、俺も俺も!」
「わかった、わかった…!全員順番にキスでも何でもしてやっから早くそこをどけェ!!」

「「「きゃー!」」」




マルコのたんじょーびっ!


「なんだ、宴の前から随分盛り上がってんじゃねェか」
「正にマルコ愛に埋もれる、って感じだな」
「グラララ…うまいこと言うじゃねェかサッチ」


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