今年の12月25日は何の因果か日曜日である。恋人もいないし仕事も休みだし、カップルが溢れる街には出たくない。そんな暇を持て余したいい大人が自分を含め3人、1つのコタツを囲んでテレビから流れるクリスマス特番をぼんやりと鑑賞していた。
「っていうか何しに来たの?」
「なんとなくだよい」
「俺もなんとなくかな」
「じゃあ帰れ」
テレビから視線を逸らすことなく家主であるわたしの言葉を華麗にスルーする(ダジャレじゃないよ!)マルコとエース。しかも今エースがいい音をさせながら頬張っているのはわたしが楽しみに取っておいたのりしおのポテチだ。袋を顔の上で傾け…って、オイ全部食べちゃったとかふざけんな!
「ナナ、お茶くれ!」
「俺コーヒー」
「自分でやれ!」
コタツの中で足を蹴っ飛ばしてやればエースは渋々席を立ち冷蔵庫へ向かった。え?いや、さすがにマルコは蹴れないでしょ。
「冷蔵庫の右の棚にコーヒーの粉があるから俺のも頼むよい」
「あたしん家なのに詳しいね」
「マルコも自分で動けよなー」
「エース、わたしもお茶ー」
「……はいはい」
エースが3つのコップを持ってコタツに戻ってくると同時に玄関のチャイムが鳴り響く。ピンポーンピンポンピンポン…うるさい。丁度立ったままのエースに顎と目で出るよう指図すると何で俺がとブツブツ言いながら玄関へ向かって行った。
「はいはいどちらさ――」
「ナナ―!聞いてくれよおお!」
「うお!?」
エースが玄関を開けると聞き覚えのある声が飛び込んできてエースにがばりと抱きついた。もしかしなくともこの騒がしさはサッチで間違いない。はあ。と、思わず溢した溜め息が誰かの溜め息と重なった。もう一つのは向かいに座るマルコのものだった。気が合いますね。
「離れろよサッチ!」
「え?ぎゃー!エース!?」
「うるせェのが来たよい」
「マルコまで!?」
「帰れ」
「ナナちゃん!?」
花束と白い箱(恐らくホールケーキだろう)を持って家に飛び込んできたのはいつもよりちょっとおめかししたサッチだった。今日は彼女と過ごすと言っていた筈の彼が何故ここにいるのか。まぁ、さっきの様子を見れば何となく察しがつかないでもないけど。
靴とコートを脱いでコタツに入り込んできたサッチは頭を垂れてこうなった経緯を話始めた。色々言ってたけど要は浮気がバレて追い返されたんでしょ?
「だから貰い手のなくなった可哀想な花とケーキと俺を貰ってください」
「ケーキだけ置いて帰ってください」
「百パーお前が悪いじゃねェかよい」
「でも、2ヵ月も前の話よ?」
「「「お前が悪い」」」
大体何で彼女とケンカした後にわたしの家に来るんだ。家に1人の時は絶対サッチを上げないようにしようと固く心に誓った。女グセと頭以外は特に悪いとこないのに残念な男だ。
しかし、クリスマスにも関わらず結局いつものメンバーが勢揃いしてしまうとは。これじゃあ普段と何も変わらないただの休日じゃないか。賑かになった部屋ですっかり忘れ去られているクリスマス特番をBGMに、代わり映えしない楽しい夜は更けていく。
なんでもない日まぁ、それも悪くない「せっかくだしサッチの可哀想なケーキ食べようぜ」
「一言余計なんだよ!エース!」
「包丁はシンクの下、左側の扉の裏に入ってるよい」
「あたしん家なのに詳しいね」