*りた様へ
「初めまして、苗字名前です。これから短い間ですがよろしくお願いします」
――黄瀬涼太、16歳。初恋の相手は男の先生でした。
お相手は海常高校に新任教師としてやってきた苗字先生。担当教科は数学で、中性的な顔立ちのイケメンで、女の子達にも人気があって、彼女はいない(らしい)。それから、俺達と年が割と近いことから相談ごとなんかも話しやすいし、親身になってくれるし、ノリもいいから、男子からも人気がある。
そんな中、俺はというと非常に困っていた。先生に恋したことなんて初めてだし(しかも男)、ライバルも多い。モデルの経験を生かしたところで、男相手に通用するとも考えにくかったし、どうしようもない。
「それで、突然誠凜を訪れて僕に相談に来たんですか」
「そうなんス…」
「黄瀬くん、初めてって言いましたけど、あんなに彼女とかいたじゃないですか」
「あれは向こうから寄ってきて…俺から好きになった人は苗字先生だけっス!」
「…まあ、それはどうでもいいです」
「ヒドッ!聞いたの黒子っちじゃないっスか!」
「それはともかく、一番効果的なのはやはり勉強を一緒にすることではないでしょうか」
「へ?勉強?」
「だって相手は先生ですよ?君は勉強苦手なんですから、良い機会です。それに分からないところを積極的に聞くことで良い生徒だと認識され、名前も覚えてもらえるでしょう。更に二人きりになることも容易いかと」
「なるほど…!黒子っちありがとう!やってみるっス!」
「頑張って下さい」
△▼
…とは意気込んでみたものの。
「何もしないで一週間経っちゃったっス…」
放課後の教室が夕焼けで染まる頃。ごつん、と自席の机に額を打ちつけて溜め息をついた。いざ話しかけようとしても、動悸息切れ発熱が止まらなくなって、結局回れ右、がいつものパターン。黒子っちにはさすがに知りませんと冷たい一言を頂いた。部活に行く気にもなれないし、先生のことで頭はいっぱいだし。またシバかれる。
「…どうしよう…」
「何が?」
「!?」
突如聞こえた声に勢い良く振り向くと、そこには悩みの種であり想い人でもある苗字先生が立っていて、不思議そうな顔をしていた。その顔があんまりにも可愛らしくて、思わず赤面。そんな俺に先生が気付くわけもなく。
「…あ、もしかして悩み事?何かあるなら話聞くけど…」
「えと…あー…まあそんなところっス(あんたのせいだとか言えないし)…」
俺のあからさまな作り笑いに気付いたのか否かはわからないけど、そっかあ…と困ったように頭を掻く苗字先生。可愛い。…ん?そういえばもしかして、これってチャンスなんじゃ…!
「あ、あの!」
「ん?」
「勉強、教えて下さい!」
△▼
「…黄瀬くん」
「んー?なぁーんスかぁー黒子っちぃー」
「報告に来たのはいいですけど、いい加減ウザイんで緩んだ顔どうにかしてください」
「だって、週二日とはいえ、二人っきりの日が出来たんスよ!部活との両立が必須だから大変っスけど、それ以上に頑張れるし!なんなら成績もあがったし!」
「はあ…」
「黒子っちのおかげっス!お礼に今日はバニラシェイクおごっちゃうっスよ!」
「それはありがとうございます嬉しいです」
「…黒子っちってホント自分の欲望に忠実っスね…」
僕を見てお金大丈夫かなあと呟く黄瀬くん。好きな人が男性の先生であると聞いた時は最驚いたものの、あんまり嬉しそうに先生のことを話すものだから、うまくいくといい、と願わずにはいられなかった。とはいえ、二人きりになれる様になっただけでこの調子とは…
「全く、いい報告は何時になることやら」
「え?黒子っちなんか言った?」
「いいえ、何にも」
道のりは長いですよ、黄瀬くん。
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