*優輝様へ
僕のことを簡単に見つけてくれたクラスメートの苗字くんは、僕以上に表情が変わらず、何を見てきたのかわからない人だった。
出会いは秋だった。図書館で本を読んでいた僕の隣に座って、その本は面白いかと聞いてきた時は僕の方がびっくりした。はい、まあと答えてからはお互いに簡単な自己紹介をして、後は何も話さなかった。
思えばその時から苗字くんの目は何も映してはいなかったかもしれない。
それがなんとなく寂しくて、時間がある時は図書館に行って、苗字くんと話すようになった。例えその目が僕を映していなくても。
「…苗字くん」
「黒子か、今日は部活ないの?」
「はい、体育館が使えなくて」
「そう」
短く会話を交わして、いつものように隣同士に座る。今日苗字くんが手に取っているのは風景画の画集だった。苗字くんはよく画集や写真集を持っている。好きなんだろうか。
「…苗字くんは、どうして僕に声をかけたんですか」
「どうして?」
「気になったんです、苗字くんが僕みたいな人と話すイメージもないし、何より僕、影が薄いのに」
「そうだな…俺さ、中学の頃、バスケ部だったんだ」
「え」
「みんな頑張ってた、でも、ほら、キセキの世代には適わなくて、途中から諦めたんだ。努力したってやっぱり才能には適わないんだって」
「………」
「だからここに入学した時さ、君がいたからびっくりして、キセキの世代ってのはどんな奴なんだろうって思って、話しかけたんだ」
「…そう、でしたか」
「中学の時から、黒子は他のキセキの世代とはちょっと違った感じがしてたんだけど、俺の予想は当たってたっぽい」
「?それは、どういう」
「他の奴らは知らないけど、お前は案外良い奴だったよ」
理由はどうあれ話しかけて良かったと、思ってる。
そうやって薄く、本当に薄く笑った苗字くんの目には、ちゃんと僕が映っていた。
僕も苗字くんと出会えて良かったです。
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