「君が影山くん?」

「…はい?」

昼休み、教室で寝ていると頭上から聞きなれない声がした。でも確かに俺の名前を呼んだから、知り合いかと上を向く(無意識に睨んでしまったかもしれない)と、鮮やかなオレンジ色の髪。この髪、どこかで…見た、ような…

「俺、日向名前です!日向の兄貴!いつも弟がお世話になってます」

「日向…?って日向ぁぁぁ!?」

ガタン、と椅子を大きく鳴らして立ち上がると教室の視線があつまるのを感じた。普段あまり喋らないから尚更に。目の前の日向兄が中庭に行こうと促してくれたおかげで助かった。ただ気分的には日向自身に助けられた気がして非常に気にくわない。

「突然ごめんね」

「いや、その大丈夫…です…」

「あ、俺が翔ちゃんに似てるから敬語で話しにくい?」

「いや、大丈夫です」

「そう?じゃあ、せめて名前って呼んで!さすがに日向が二人もいたんじゃ面倒でしょ」

「…うス」

頷いた俺に名前先輩が笑いかけて、それから俺がよく飲むメーカーのジュースを渡される。

「これ…」

「翔ちゃんが、影山はいつもコレだって」

「はあ…(アイツ何話してんだ)」

「いつもスガや大地にも影山くんのこと聞いててさ、会って話したかったんだよね」

「な、なんて…言ってましたか」

「んー…何だかんだ単細胞で可愛い後輩だって」

「単細胞…」

「いいじゃん単細胞!俺そういうの大好き!」

「…そうですか」

「うん」

「…ていうか俺、日向に兄がいるなんて聞いてないです」

「あ、やっぱり?翔ちゃん昔からそうなんだよなあ」

「昔から?」

「そ、誰かに言ったら、俺が取られそうで嫌だって。そんなわけないのにね」

可笑しそうに笑う名前先輩は、あまり日向に似ていない癖に笑顔は似ていて、なんだかむずむずした。それに、日向の気持ちも分からなくもない。なんていうか、自分だけのものにしたくなるっていうか、守ってあげたくなるっていうか、そういう雰囲気が漂っている。どうしようもなく日向が羨ましくなった。

「…おっと、昼休みももう終わりか、ごめんね付き合わせて」

「あの!」

「ん?」

「こ、今度!練習見に来て下さい!」

「…翔ちゃんに来ない様言われてたけど、影山くんの指名があるんなら、行こうかな!」

太陽みたいな笑顔で笑った名前先輩に心臓が高鳴る。とりあえずは日向の驚く顔が楽しみだ。


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