*祐希目線



きっかけは、なんでもない昼休みだった。春が千鶴に兄弟はいるのか、聞いたこと。いないと返されると思っていた(あのフリーさは一人っ子だと思っていた)から、

「俺?俺は兄ちゃんと二人兄弟!」

衝撃を受けたわけですよ。

△▼

「で、なんでファミレス待ち合わせなんだよ」

「兄ちゃんの大学近いし、俺らの高校からも近いから!」

「千鶴んちじゃだめだったの?」

「うち汚いからさー、兄ちゃんが嫌だって」

「突然、会ってみたいなんて言って迷惑とかでは…」

「ないない!兄ちゃんも楽しみにしてたもん!特に春ちゃん!」

「千鶴さん、どんな紹介したんですか…」

「え、そのまんま?」

「なんで疑問系なんだよ…」

千鶴のお兄さんに会ってみたいと言い出したオレと春によって、千鶴が約束を取り付けてくれたのだが、なんか無駄に緊張する。お兄さんは大学一年生の文学部、そのうえバンドのボーカルを務める金髪碧眼イケメンらしい。大学一イケメンらしい。チートすぎやしませんかね。

「お前とはえらい違いだな」

「なにおう!俺だってイケメン!見よ、この美貌を!」

「…あー…触覚の付いた子ザルにしか見えねえ」

「むきーっ!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を横目に、窓の外を見ていると低めの綺麗な声が聞こえた。

「遅くなりました、千鶴の兄の名前です」

「兄ちゃん、大学お疲れ様!」

「ありがと、千鶴は元気だなあ」

いやいやいやいや。いくらなんでもこれは…

「「「「…似てない…」」」」

「えー、そうかなあ?あ、えっとゆうたんくん、隣いい?」

「えと…あの…その呼び方は」

「あ、千鶴がいっつもゆうたんって呼んでるから本名知らなくて…ごめんね?」

眉を下げて笑う名前さんは、なんというか御伽噺から出てきたようなイケメンだった。聞いてて心地いい声、ふわふわと揺れる柔らかそうな金髪、中性的で綺麗な顔に優しげな笑顔。これは確かに大学一だ。

「名前さん、本当に格好いいですね…!」

「お前…本当に弟かよ」

「嘘じゃありませんー」

またぎゃあぎゃあと騒ぎ出した要と千鶴、それを宥める春を微笑ましそうに眺めながら、千鶴の飲んでいたオレンジジュースに名前さんがテーブルにあった塩を入れて溶かす。顔に似合わぬ割とえげつない行為に悠太もオレも目を見開いた。

「……あ、の」

「しー、内緒内緒」

口を開いた悠太の口にぴとりと人差し指を当てて悪戯っぽく笑う名前さんに、悠太が動揺したのに気付いたのは、多分オレだけだったと思う。

それから、悠太が名前さんに見惚れていたことに気付いたのも、悠太が名前さんに一目惚れしたことに気付いたのも、多分オレだけ。



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