Nを敵だと思ったことは一度もなかった。むしろNのいうトモダチだと僕は思っていたし、いやでもN自身がどう思っていたか知る術もないけれど僕にとってNは大切なトモダチだった。彼はポケモンを解放すると少し間違ったことを言っているがそれは純粋にポケモンのためを思ったからで、そう、僕はそれと同じような感情をNに抱いてしまったわけだがどうにも納得できないところがある。ベルにいうと彼女はそれは恋だねえと嬉しそうにいつもみたいなふわふわした喋り方で言ったし、チェレンにいうと彼は眉間に皺を寄せて気持ち悪いと言った。チェレンのは全く使えないお言葉だったからベルの言葉について僕は真剣に考えてみる。恋ってなんだ。僕だって子供のころ、近所のお姉さんに恋したことはあるがいやまてまて。それ以前にNは男である。えええええ…。あまりの恥ずかしさと自分の異常な気持ちに戸惑って帽子を深くかぶりなおし、頭を抱えて意味もなく歩くと後ろから声がかかった。
「ブラック、ストップ。君は木で顔を変形させるつもり?」
「うわ、あっぶね。チェレンありがとー」
「どうしたのさ。そんなふらふらして」
ツタージャを肩に乗せて僕を不思議そうに見ているチェレンに苦笑いをしてなんでもないよと言うと、訝しげに僕の目を見た後、溜め息を吐いた。どうせあいつのことだろう、と口が動いた。
「う、うん!ええええNのことなんだけどさ、」
「ボクがどうかした?」
わああああ、と僕は叫ぶ。それに対してNも少なからず驚いたらしくて肩をびくつかせた。チェレンのうるさい、という声が聞こえたけれど僕はあえて無視しよう。あとで怒られるかもだけど今の僕にはそれほど余裕がない。
「…ボクのこと、呼んだ?」
「いや、あの、えと…」
「はあ…。ブラック、素直になりなよ」
メンドーだな、と言ったチェレンの顔を凝視するとなに、といつもみたいな冷静な声が耳に響く。なんだこいつまじなにこいつ。
「ブラックはボクになにか用があるの?」
「ええと…」
すう、と深呼吸。それから間をあけて、Nを見据えた。いつになくNが緊張しているような気がする。大丈夫だよ、別にいまここでNを倒そうとかそういうことじゃないから。
「あのさ、」
「うん」
「ポケモンを解放とかぶっちゃけどうでもいいんで、っていうか別に解放してくれても構わないんで僕がバトルに勝ったら付き合ってください。あっ、でもそれだとチェレンに怒られるから僕が勝ったらやっぱりポケモン解放もやめて僕と付き合ってください」



0929.あなた以外どうでもいいの




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