※捏造(クリア後)



「どうしたの、N。何か悲しいことでもあったの?」
僕に縋りついて泣くNの背中を軽く叩きながら聞くとたくさんの涙を目に溜めてそれを零しながらNは僕を仰ぎ見た。ぽろぽろ零れ落ちる涙を指で掬いながらもう一度どうしたのと聞くとよりいっそう目に涙を溜めて零す。これは困った。こんなのじゃポケモンセンターに行って戦いの果てに疲れたポケモンたちを休ませることも出来ない。いや本当に困った。幸いにも僕たちがいるところは草むらで、これまた運よくトレーナーの一人も見当たらないのが僕にとっての救いだ。変な目で見られることもない、ただ僕が困るだけで済むのだから不幸中の幸いとしよう。ふう、とNには聞こえない程度の溜め息を吐いて未だに泣くNから帽子を取って頭を撫でた。ちなみに僕は今どんな状態かというと草むらでNに押し倒されている体制だと言っていい。いやそれの一歩手前。片手で身体を支えている状態なのだがこれがきつくてたまらない。Nに少しどいて、と言い大人しく退いてもらうと今度は地面に座った僕の足に乗られる羽目になった。重いと言ってどいてもらおうとも思ったがお世辞にも重くない。むしろ軽くて苦にもならなかった。そのままやはりNは僕に抱きついて泣く。一体どうしたというのだろう。確かにNは脆いし何かをしただけですぐに泣きそうになるけれどこんなに泣かれたのは初めてだ。あの初めて会ったときの、少し頭がおかしいんじゃないかと思ったときのNはどこにいったのかと思ったがあの頃のNはもういないのだと悟る。Nは強くなった。逆に脆くもなった。昔のNは泣くという感情を持っていなかったと思うし、けれど今はこんなに泣く。今まで泣かなかった分、涙を零すようにして。世界を変える数式は解けないと言っていたあの頃、彼は一体どれだけポケモンへの愛で満ち溢れていたのだろう。全てが仕向けられたことだったとしても彼のポケモンを解放したいという願いは本当のものだった。それはポケモンへの愛があるからこそだと僕は思う。だから僕は昔のNの言うことも理解出来た。きっと今ここにいて子供みたいに泣きじゃくるNは昔みたいな度をすぎた愛じゃなくて純粋にポケモンを愛している。僕はそんな優しい彼を、脆い彼を、強くなった彼を振り払うことなんか出来ない。実際こうやって泣き縋られ、足の上に乗られても何も言えないでいる。

「泣いてちゃわかんないよ。どうしたの?」
いやなゆめをみたんだ。Nは僕の首に腕を回して抱きつきながらそう言った。子供のように拙い言い方。それは今、N自身が壊れそうだからなのだと思う。

「そっか。それは怖かったね」
「…うん」
「でも大丈夫だよ。傍にはポケモンがいるから」

Nが身体から離れて僕の目を見た。目に溜まり続けた涙は止まったようだ。

「君は…」
「え?」
「君はボクの傍にいてくれないの?」
「……馬鹿だなあ」

ぎゅ、とNを抱きしめた。Nの慌てふためく声が耳に響く。なんだよそんなに驚くことかよ。自分だって抱きついてくるくせに。それを言うとまた泣かれそうだから言わないけれど。綺麗な緑が目にちらつく。「言わなくてもわかってるだろ?」
Nのうん、という嬉しそうな声と同時に背中に腕が回るのを感じた。



0923.言葉にしない




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