※ネタバレ注意



不気味なほど純粋無垢な部屋だった。例えるならばまるで子供部屋といったところだろう。床は青空。少しだけ濃いブルーに簡単に描かれた雲模様が子供らしさを強調している。何故天井にではなく床に青空を広げたのか僕には理解できなかった。壁もお世辞にはセンスがいいとは言えないもので、どちらかといえば下に広がる青空に不釣り合いな上に趣味が悪すぎる。壁だけをよくよく見ると気持ちが悪くてこんなところにいたら頭がおかしくなると子供の僕でさえも容易に想像がつく。誰もこんな部屋にはいたくない。こんな部屋を与えられたくはない。けれどこの部屋を与えられ、物心つく前の幼き頃からここで暮らした者を僕は知っている。彼はプラズマ団の王だと言った。ポケモンを解放したいと本気で願った。そう仕向けられているのにも気付かずに優しい彼は全てのポケモンの解放を願ったのだ。とある団員は言った。ゲーチスはポケモンを解放したいとは願っていない。いつもどうやったら人を自由自在に操れるのかを考えていると。違う団員が言った。Nは幼き頃より人に虐げられたポケモンたちに囲まれて生きてきた。それら全てゲーチスの思惑である。だからこそNはこの不気味な部屋で今も昔も生きているのだ。くるくるまわる飛行機の模型、障害物のせいで行ったり来たりを繰り返す電車の玩具、幾何学的な模様のアートパネル。一つ一つのもの自体は普通だがそれら全てがこの部屋に集まると異常なまでに不気味だった。タイヤが積み重なった上に置かれたスケートボード。僕にはこれに何の意味があるのか解らない。そもそもこの部屋全てが僕にとっては理解不可能だ。背筋が凍る。それほどまでに不気味なこの部屋で目につくものがあった。球体、否何か書かれたバスケットボールを持ち上げる。相当使い古されているのか色が落ちて汚れていたがかろうじて書かれていた文字を読むことは出来た。
「…ハルモニア?」
Nの苗字だろうか。それとも名前だろうか。もしかしたら何か大切な人の、ポケモンの名前かもしれない。意味もなくバスケットボールを抱きしめた。こんな不気味な部屋でNは何をしていたのだろう。ポケモンと遊んでいたのだろうがNは寂しくなかったのだろうか。人間とまともに話をしただろうか。ポケモンの言っていることが解るようになっても人間の感情をNは理解できないと思う。解っているはずなのにNは理解しようとしない。だからこそ、虐げられたポケモンたちの中で育ってきたからこそ、ポケモンのためを思って人間から解放させようとする。僕はNと戦わなければならない。負けるわけにはいかないのだ。あんなに優しい人間を僕は知らない。チェレンやベルとは違う優しさをもった人間を、僕は知らない。だからこそ、Nに勝って真実を示す。Nも間違っていはいないがNの理想を肯定する気にもならないのは確か。
帽子をかぶりなおした。僕のために頑張ってくれるポケモンたちのためにも、ポケモンが大好きな皆のためにも、負けられない。ふと思う。Nが普通の家庭に生まれて普通に育っていたのならきっと僕たち、最高のトモダチになれたんじゃないかな。



0922.優しい子




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