僕には嫌いな歌がある。その歌は楽器もなにもない、声で紡ぐメロディーと歌詞だけの歌。僕はその歌がとても嫌いだ。煩いくらいに紡がれる音と歌詞が嫌な僕はその歌を聴かないように両手で耳を塞いだのだけれど歌は容赦なく僕の手を剥ぎとって耳に音と歌詞を運んでくる。嫌だと歌に言ったら歌は驚いてどうして、と唄った。どうしてなのか僕も解らなかったからとりあえず耳障りだとだけ言うと歌は悲しそうに音を切って唄うのをやめたらしい。それからの僕の生活は少しだけ寂しいものになった。煩いと思っていた歌が聞こえないとなると僕は何故か歌に見捨てられたような気がして涙が出た。本当に意味が解らない。僕は今更歌に謝ることが出来ないと知っている。歌は僕だけのものじゃなかったからだ。僕以外の人間にも歌は唄う。歌は人気があるから僕一人の人間のためにまた唄ってくれないと悟ってはいた。毎日のように僕一人のために唄ってくれたことは贅沢なことなのだと、僕はいつでも気付くのが遅いのだと苦笑いを浮かべる。久し振りの笑顔だなんて僕は気付かない。歌は優しいから僕が謝りにいけば許してくれると思う。けれどそれじゃあだめなんだって。僕自身が、僕自身とは違う何かがそれじゃあだめだよって言った。だから僕はどうすることも出来ないでずっとずっと、来るはずのない歌を待つしかないんだ。歌は元気にしているだろうか。唄っているだろうか。僕はこの世界の誰よりも歌が、歌の唄が好きだった。
「グリーンの声を聴きたい」
「仕方ねーな。なんて言って欲しい?」
「…僕のこと、好き?」
「愛してる」


I am not particularly fond of you.
No,I love you.



0912.僕の嫌いなうた




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