free | ナノ
現代パロ



教科書を詰め込んだおかげで重くなった鞄を肩に掛け直して帽子を深くかぶり、自分を落ち着かせるようにして息を吸った。すう、と小さな呼吸音が妙に僕を冷静にさせる。両手で軽く頬を叩いて先走る気持ちと自分を戒めたあと、目の前の大きな家に目を向けた。これから僕はこの家に乗り込む。乗り込むと言ってもただ二階のベランダに侵入するだけだ。本当はインターホンを押して正々堂々と家の中に招き入れてもらうのが一番だけれど生憎僕はこれから会いに行く人に関係がある方々には嫌われている。しかもこの家庭は結構複雑な家庭でそう簡単に今から会いに行く人に会わせてくれないのだ。それならば仕方ない、ベランダから侵入してやろうと思ったわけだがはたして僕にはそれほどの身体能力があるだろうか。物は試しと言うが僕にはそんな勇気は持ち合わせていなかった。ベランダから侵入という犯罪にも近い案より更に効率の良い案を考えて唸っていると声が降ってきた。
「そんなところで何をしているんだい」
「え、あ…」
僕が会いに行こうとしていた人が控えめに身を乗り出して僕を見ていた。緑の髪が太陽を反射して少し眩しい。僕はあまりの突然さに口を開けたままだった。
「どうしたの?」
「いや、あのさ、ベランダに出て来ていいの?」
「ああ…。今日は僕以外誰も家にいないんだ」
頬が引き攣った。じゃあ僕は一体なんのために悩んでいたのだろう。普通にインターホンを押せばよかったじゃないか。頭を抱えそうになった。



完成する気がしない



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -