ボーダーにいるとかランクがどうとか、そういうのって全然日常生活においては役に立たないことなんだけど、案外みんなそれを分かっていない節がある。

 オレはそりゃあ、A級1位っていう肩書きを抜きにしてもボーダーの中でも屈指のシューターだと思うし、ていうか同じポジションの誰にも負けない自信があるし、同じポジションどころかそんじょそこらのアタッカーぐらい一人で蹴散らすくらいは余裕だって自負している。ボーダーという組織の中でも一目置かれている。でも、だからといって運動が得意かというと、特別そういうこともない。いくら優秀な防衛隊員でも、トリオン体でなきゃ一般人に毛が生えたくらいの運動能力しかない。だいたいそんなもんだ。身体の動かし方を知ってさえいればどうにかなる戦闘体と、実際に動かす筋肉が必要な実際の肉体は大きく違う。もちろん何にも鍛えていない奴よりはマシだろうけど、それにしたって、高校生くらいだと運動をしている男の方が多いくらいなもんだから、米屋やら緑川みたいな野生動物みたいな奴らと違うオレみたいなのはどうしたってその辺の生徒とおんなじようにしか動けない。まあだからこそ、体育だのでクラスの奴らとスポーツをしてても人並みに楽しめるんだから贅沢は言ってはいられないのかもしれない。


 で、結局のところ何が言いたいのかっていうと、いくらボーダーの隊員だからといって、人並み以上に運動能力を持っていて人並み以上に鍛えている人間が投げてくるボールを咄嗟に避けるのは不可能だってこと。

 オレのクラスにはハンドボール部に所属している女がいる。ちょくちょく表彰台に昇っている姿を見かけるくらいには上手いらしい。男に混じってハンドボールをしていても何ら遜色ない動きをしているから、きっとそこそこ上手いというのも本当のことなんだろう。そいつは体育の授業中だっていうのに、相手チームの生徒をかいくぐりながらパスを受け、ボールを回し、水を得た魚のようにコートを駈けずり回っていた。あんまり楽しそうなもんだから、大人げないだなんて文句も浮かんでこない。チームメイトにもよくパスをしてみたり指示を出してみたり、そこそこ試合の形になるように働きかけているせいもあるのかもしれない。そんでオレもその女と同じチームになったものだから、ボールをを回したり自分でもシュートを打ってみたいと、それなりに楽しんではいた。

 問題なのは彼女のプレーじゃない。プレー自体には文句がない。相手チームも悔しそうにしながら、次はうちのチーム来いよだのと言って楽しんでいるようだったから。

 だから、まあ、きっと悪かったのは彼女でもなければオレでもなく、ただただ運の尽きだったと、そういうことだったんだろう。


 オレがパスを受けようと、彼女に向かって手を挙げ、彼女がそれに気付いたとき。ぱっと出されたパスがあんまり勢いが良いものだったから、オレがそれを取り損ねて指先からボールがこぼれた。取りはぐったボールは弾かれてオレの顔に直撃し、バン! と妙にいい音を上げた。視界が真っ白になった。一瞬遅れて痛みと衝撃が脳を揺らした。あっ、と声を上げたのが分かった。オレの声じゃない。あいつのだ。その後どさりと尻もちをついてさらに衝撃。

 ばたばたと駆け寄ってきて「出水、大丈夫?」と彼女がオレの顔を覗き込んだ。屈んだ彼女のTシャツの襟元から服の中が見えた。角度のせいだ。「ごめん、取りにくかったよね」と彼女が謝るのも全部右から左。もうオレは胸元から覗く淡いオレンジ色のブラジャーしか見ていない。かろうじて「保健室行く? ついてくよ」という申し出にはきちんと頷くことができたから、下心ってすごいと思う。顔面にボールっていうのはこの上なくかっこ悪いけど、こういうオチなら悪かない。

(お題:かっこ悪いユートピア)



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