her acceptance


 苦手な人がいる。理屈や理由のあることじゃなくて、単に生理的な反りの合わなさで、得意ではない。誰が悪い訳でもない。私も悪くなければ、その人が何かしたということもない。ただただ苦手だった。昔から。


 その人は私の幼なじみの一人だった。私と、ほとんど年の変わらない男の子と、その人。子どもの少ない地域で育ったから、その人は年が少し離れてはいたけれど、よく一緒に遊んでいた。遊んでくれていたと言った方がいいのかもしれない。その人とは6才も離れていたから、幼なじみというよりも姉といった方がしっくりくるし、もっと言えばちょっとした母親のようでもあった。

 その人は私を、双葉ちゃんと呼んだ。私や、幼なじみである彼女の弟が、何をしたって決して怒ったりしなかった。許されているという感覚があって、それがどうしても居心地が悪く、私は彼女を姉のように思っていたにも関わらず、お姉ちゃんなどという生ぬるい呼び方はしなかった。どんなに優しくされていたって結局は他人でしかないという諦めがあったから。


 ずっと違和感があった彼女に対する感情が、苦手なのだとはっきりしたのは、数年前、近界民の大規模侵攻があった時だった。

 たくさんの人が死んだ。人が死んだという事実が、ただの数字の上でのことになるくらい、本当にたくさんの人がいなくなった。死にかけて命からがら逃げ延びた人も多かった。私もそうだったし、幼なじみの姉弟も同じだった。

 彼女が、弟を庇って怪我を負ったことを知ったのは、避難を終えてしばらく経ってからのことだった。

 今でもよく覚えている。病室に彼女がいて、「双葉ちゃんも無事だったんだね。良かった」とそう笑った。包帯の巻かれた痛々しい姿だった。

「何が良かったの? そんなに怪我もしてるのに」と、私は言った。論点のズレには気づいていたけれど、悪態をつかずにはいられなかった。病室の入り口で、扉を開け放したまま俯く私に、彼女が微笑むような気配があった。「双葉ちゃんも私も生きてたんだから、それ以上のことはないよ」

 許されている、という自覚があった。許容されている。たぶん、私も、彼女の弟も。だから苦手なんだ。一人の人間として見られていないようで。

 自覚した瞬間、嫌悪の感情を覚えるのは簡単なことだった。私は顔をしかめた。「あんたが死んだら意味がないじゃない」とも言った。それでも彼女は笑って私を許した。「そうだね」と言ったきり。

「駿だって心配して、今にも死ぬんじゃないかって顔してたし、おばさんたちだって気が気じゃないって言ってた。かばうのは分かるし、それはいいけど、死んだら元も子もないじゃない。どうしてそんなことしたの」
「……わかんない」
「なにそれ」
「考えるより先に身体が動いた。死ぬかもしれないなんて、これっぽっちも頭になかった。たぶん、身体に染みついてるんだよ、そういうの」

 彼女の言いたいことは痛いほどよく分かった。理解できたのに同意が出来なかったのは、ただ彼女を非難したかったからに他ならない。

 私は、ただの未熟者だ。

 羨ましかった。そうやって他人を受け入れて許せることが。

 彼女が嫌いだった。自分が未熟な子供で、一人の人間としては取るに足らないということを思い知らされるから。



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