「で、どうした?あ、なんか飲む?」
「なんかあるんですか」
「コーヒーなら」
「………コーヒーならいいです」
「あれ?でも北海道の喫茶店行った時ブラック飲んでなかった?」
「…………」
「…………」
「…………」
「あっははは!」
「笑うな!」
やっぱり全て、見透かされている。
「へぇ。ストーカーか。もてる男は辛いねー」
「からかわないでください。ほんとに昨日怖かったんすから」
「そうだね。ごめんごめん」
ミルクを2つと砂糖を4つ入れたコーヒーはもはやコーヒーではなかった。
暖かい砂糖の飲み物だ。
それをちびちびと飲む智希を見つめながら東條もブラックコーヒーを飲む。
「で、泉水さんには…お父さんには言った?」
「言ってない」
「だろうね」
そうだと思った。
東條は目を伏せて一呼吸置いた。
自分の経験からして、子どもはイジメられている事を親に言えない。
自分の存在価値を否定されるような扱いを受けていることは知られたくないというのが心理だ。
怒られる。そういった恐怖観念よりも心配させたくないといった気持ちのほうが大きいだろう。
智希君の場合はイジメではないけど、ストーカー行為をされているということを父に話すと、まず、お父さんは心を痛めるだろう。
なぜ、気づいてあげられなかった、なぜ、守ってあげられなかった。
大きな事件になっていなくてもそれはきっとお父さんの心に深く傷をつける。
ま、智希くんは泉水さんに知られることなく解決したいんだろうな。
これが親と子だけの関係ならまだ楽だったかもしれない。
親、プラス、恋人だ。
確かに対策を練らなければ最悪智希くんをストーキングしている女の子に、泉水さんとの関係がばれてしまうかもしれない。
現状、そこまでひどくはないようだが、この年齢で、しかも智希くんは芸能人並みに人と少し違うなにかがある。
おかしな行動を起こさなければいいけど。
「あの…東條さん?」
「あぁ、ごめんごめん。でも俺に相談してくれて嬉しいよ。君たちの事わかってる俺じゃないと相談できないってのもあると思うけど」
ズズっとコーヒーを飲んでニコリと笑うと、甘い砂糖コーヒーを半分も飲んだ智希は反対に辛い顔をした。