第2章
10

「いっ…痛いっ…やめっ…」

「何がだよ、どんどんでかくなってんだろ」

「っく……うっ…」

「よし、二人とも離れろ」

置田の言葉で簡単に離れた二人は、姫川を置いて教室の端に寄った。
急に刺激がなくなり驚いた姫川がゆっくり目をあけると、カシャっという電子音が聞こえた。


まさか、と姫川が置田を見ると、置田は携帯のカメラで姫川の恥態をおさめていた。

サァーっと、姫川の顔色が青くなっていく。

「なっ…なにっ…なっ」

ガタガタと震え、うまく話せない。

「あーあ、姫ちゃん泣いちゃったー」

長谷部が再び姫川に近づくと、知らない間に流れていた涙を拭き頭を撫でた。
震えながら姫川は長谷部を見上げると、絶望感漂う表情でぽろぽろと涙を零す。

「いっ…今…携帯っ……カメラっ」

「うん、証拠写真撮らせてもらったよー」

子供をあやすように長谷部は姫川の頭を何度も撫でると、笑顔とは裏腹な残酷な言葉を吐き捨てる。

「あの写真、泉水先輩に見られたくなかったらバスケ部辞めてねー」

「っ………」

ひくっと、姫川の喉が鳴る。

「……姫川、返事は?」

置田の低い声が響く。

「わかりましたって言ったら紐ほどいてやるよ」

菅沼が怠そうに喋る。

しかし姫川は頷かなかった。

「……へぇ」

置田が、携帯を机に置き、ゆっくりと姫川の前へ歩いてくる。

怖い、正直本当に怖い。

しかし姫川は頷くことは出来なかった。
智希の為にこの高校に入った。智希とプレーしたい。
智希をもっと見たい。
智希と仲良くなりたい。

バスケがしたい。

「じゃあもっと、恥ずかしいことしてもらうか」

「っ………」

渇いたと思った涙がまた、溢れ出した。

「いきなりは流石にしないから安心しろよ」

「っ………」

震えが止まらない。
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